青空AI短編小説

夜を彷徨う者たち〜シルバーコード〜

登録日時:2025-08-14 07:53:37 更新日時:2025-08-14 07:55:10

第一章 夜の住人


リョウの一日は、夜が始まってから本当のスタートを切る。


昼間の大学生活なんて、ただの前座みたいなものだった。退屈な講義を聞き流し、友人たちとの当たり障りない会話をこなし、バイト先のコンビニで愛想笑いを浮かべる。全部が全部、夜の楽しみのための準備運動でしかない。


「おやすみ、リョウくん」


母親が部屋のドアをノックして声をかけてくる。時計を見ると、もう夜の十一時を回っていた。


「うん、おやすみ」


適当に返事をして、ベッドに横になる。でも、眠るためじゃない。これから始まる本当の夜のために、体を休めるんだ。


深呼吸を繰り返し、意識を集中させる。最初は指先から、次に手首、肘、肩へと、体の感覚を一つずつ遮断していく。慣れた手順だった。もう三年も続けているから、今では五分もあれば準備完了だ。


ふわり。


その感覚は、まるで暖かい湯船から立ち上がるときのような、軽やかな浮遊感だった。目を開けると、ベッドに横たわる自分の肉体が見える。寝息を立てて、平和そうな顔をしていた。


「よし、今夜も成功」


幽体離脱。一般的にはオカルトとして片付けられがちな現象だけど、リョウにとっては日常の一部だった。最初は偶然だった。中学生の頃、熱を出して寝込んでいたとき、ふと気がつくと天井近くから自分を見下ろしていた。あのときの衝撃は今でも覚えている。


でも今は違う。これは彼の趣味であり、娯楽であり、現実逃避の最高の手段だった。


部屋の壁をすり抜けて外に出る。夜の住宅街が眼下に広がっていた。街灯の光が規則正しく並び、時折車のヘッドライトが道路を流れていく。


「さて、今夜はどこに行こうかな」


選択肢は無限だった。東京の摩天楼を眺めるもよし、沖縄の美しい海岸を訪れるもよし、時には海外まで足を延ばすこともある。物理法則に縛られない幽体なら、移動に時間なんてかからない。思い描いただけで、瞬時にその場所にいることができる。


今夜は、いつもの集会所に向かうことにした。


第二章 霊体の集会所


集会所と呼んでいるのは、廃墟となった小学校の体育館だった。現実では取り壊しが決まっているらしいが、幽体の世界では永遠にそのままの姿を保っている。ここに、リョウと同じように幽体離脱を楽しむ仲間たちが集まってくる。


体育館に着くと、すでに何人かの姿があった。みんな現実の肉体とは微妙に違う姿をしている。幽体離脱中の姿は、その人の理想や願望を反映しているからだ。


「よう、リョウ」


声をかけてきたのは、ケンジという男性だった。現実では中年のサラリーマンらしいが、ここでは二十代前半の青年の姿をしている。


「お疲れさま。今夜は何人くらい来てるの?」


「いつもより少ないかな。十人くらいだ」


確かに、普段なら二十人近くが集まるのに、今夜は随分と寂しい。


「最近、来なくなった人が多いよね」リョウは何気なく呟いた。


ケンジの表情が僅かに曇る。「そうだな……ユキちゃんも、タカシも、先週から姿を見せない」


ユキは女子大生で、タカシは高校教師だった。どちらもここの常連で、特にユキはいつも明るく場を盛り上げてくれる存在だった。


「風邪でも引いたんじゃない?」


「だといいんだけど……」


ケンジの歯切れの悪い答えに、リョウは首をかしげた。


そのとき、体育館の隅で小さな人だかりができているのに気がついた。何人かが輪になって、ひそひそと話し込んでいる。


「あそこで何の話をしてるんだろう」


「ああ、例の噂だよ」ケンジが苦笑いを浮かべた。「『釜を持った死神』の話」


「釜を持った死神?」


「最近出回ってる都市伝説みたいなものさ。幽体離脱した人を狙う死神がいるっていう話だ。大きな釜を持っていて、それでシルバーコードを切り取ってしまうんだとか」


シルバーコード。幽体と肉体を繋ぐ、目に見えない糸のような存在だ。リョウも時々、自分の体から銀色の光る糸が伸びているのを感じることがある。


「シルバーコードが切れたら?」


「二度と体に戻れない。つまり、死ぬってことだ」


リョウは鼻で笑った。「また大げさな作り話だね。そんなことがあるなら、もっと大騒ぎになってるでしょ」


「そうだよな」ケンジも同調したが、その笑顔はどこか硬かった。


第三章 消える仲間たち


それから一週間が過ぎた。


リョウは相変わらず毎晩のように幽体離脱を楽しんでいたが、集会所に来る人の数は日に日に減っていった。常連だったメンバーが次々と姿を消し、昨夜などはケンジを含めてたったの五人しかいなかった。


「おかしいよ、これは」


ケンジが不安そうにつぶやく。彼の幽体も、以前ほど安定していない。輪郭がぼんやりとして、今にも消えてしまいそうだった。


「みんな飽きただけでしょ」リョウは努めて明るく言った。「幽体離脱なんて、所詮は趣味の一つだし」


でも、本当はリョウも気になっていた。ユキもタカシも、そして他の常連たちも、これほど長期間姿を現さないのは異常だった。みんな幽体離脱が大好きで、特にユキなんて「これがないと生きていけない」と言っていたほどだったのに。


「リョウ」ケンジが急に真剣な顔になった。「君は『釜を持った死神』を見たことはない?」


「ないよ。そんなものいるわけないじゃん」


「……そうだよな」


でも、ケンジの表情は晴れなかった。


その夜、リョウは一人で夜の街を飛び回った。いつものように楽しいはずの空中散歩が、なぜか心に重くのしかかる。風景は同じなのに、何かが違っている。まるで世界全体が薄暗いフィルターをかけたみたいに、色あせて見えた。


気がつくと、ユキの住んでいるアパートの前にいた。


三階建ての古いアパートの二階。角部屋の窓から、薄っすらと電気の光が漏れている。ユキは夜更かしが好きだから、まだ起きているのかもしれない。


そっと部屋の中を覗いてみる。


リビングでは、テレビがつけっぱなしになっていた。でも、ユキの姿はない。寝室も見てみたが、ベッドは空だった。


「おかしいな……」


ユキがいない。この時間なら、幽体離脱をしているか、少なくとも部屋にいるはずなのに。


嫌な予感がした。


第四章 遭遇


翌日の夜、リョウは集会所に向かった。でも、体育館には誰もいなかった。がらんとした空間に、自分の足音だけが響く。


「ケンジ?誰かいる?」


呼びかけても、返事はない。


ついに一人になってしまった。


リョウは体育館を後にして、夜空を彷徨い始めた。目的地はない。ただ、一人でいることの寂しさから逃げるように、あてもなく飛び回った。


そのとき、遠くから奇妙な音が聞こえてきた。


コン……コン……


鈍く、重い音。まるで巨大な鍋か何かが地面にぶつかるような音だった。


リョウは立ち止まって、音の方向に注意を向けた。音は規則的に、だんだん近づいてくる。


コン……コン……コン……


心臓が激しく鐧動し始めた。幽体には心臓なんてないはずなのに、確かに胸の奥で何かが暴れている。


そして、闇の向こうに巨大な影が現れた。


黒いローブを纏った人影。その手には、人間が二人は入れそうな大きな釜を持っている。顔は深いフードに隠されて見えないが、そこから漂う威圧感は尋常ではなかった。


『釜を持った死神』


リョウの脳裏に、ケンジの言葉がよみがえる。


まさか、本当にいるのか?


死神(と呼ぶしかない存在)は、ゆっくりとリョウに近づいてくる。その歩みに合わせて、コン、コン、と釜が地面を叩く音が響く。


「う、嘘だろ……」


リョウは後ずさりしたが、足が震えて上手く動かない。恐怖が全身を支配していた。


死神は立ち止まると、釜を地面に置いた。そして、ゆっくりとフードを取った。


そこにあったのは、顔ではなく、暗闇だった。文字通り、何もない空虚な暗闇。でも、その暗闇の奥で、何かが蠢いているのが感じられる。


『また一人、遊びに夢中になった子羊が迷い込んできた』


声は頭の中に直接響いた。冷たく、感情のない声。


『幽体離脱は楽しかったかい?現実から逃げて、自由に空を飛び回るのは?』


「あ、あんた誰だ!何をする気だ!」


リョウは必死に声を絞り出したが、震え声になってしまう。


『私は収穫者だ。遊びに溺れた魂を、本来あるべき場所に送り返す役目を負っている』


死神は釜の中を覗き込んだ。中から、銀色に光る糸のようなものがたくさん見えた。


シルバーコード。


『君の友人たちのものだ。みんな、最期まで現実に帰りたがったよ。でも、遅すぎた』


リョウの膝が崩れ落ちそうになった。ユキも、タカシも、ケンジも……みんな。


「そんな……なんで……」


『なぜだと?』死神が笑うような気配を見せた。『君たちは線を越えたからだ。幽体離脱を娯楽として、現実逃避の手段として使い続けた。魂と肉体の絆を軽視し、生と死の境界を曖昧にした』


『その代償を支払う時が来たのだ』


死神が釜に手を伸ばす。その瞬間、リョウは自分の体から伸びるシルバーコードを感じた。銀色の糸が、確かに自分と肉体を繋いでいる。


でも、その糸が震えている。まるで切れそうになっているみたいに。


第五章 シルバーコード・ゲーム


「待って!」


リョウは必死に叫んだ。「僕はまだ死にたくない!帰る場所があるんだ!」


『帰る場所?』死神が動きを止めた。『君にとって、現実世界はただの退屈な日常ではなかったのか?』


「それは……」


確かに、昼間の生活は退屈だった。でも。


「でも、僕には家族がいる。友達もいる。まだやりたいことだってある!」


『ほう』


死神がリョウを見つめる。その暗闇の奥で、何かが蠢いた。


『では、ゲームをしよう』


「ゲーム?」


『シルバーコード・ゲームだ。ルールは簡単。君は自分の肉体に戻ることができれば勝ち。私が君のシルバーコードを切れば私の勝ちだ』


死神が釜から一本の糸を取り出した。それは確かに、リョウの体から伸びているシルバーコードだった。


『制限時間は一時間。その間に肉体に戻れなければ、君も他の者たちと同じ運命を辿ることになる』


「卑怯だ!そんなの無理に決まってる!」


『無理?』死神が嘲笑うように言った。『君は三年間、毎晩のように幽体離脱をしてきた。その経験があれば、一時間で肉体に戻ることなど造作もないはずだ』


『ただし』


死神の声が低くなる。


『私は君を追いかける。逃げ切れるかな?』


突然、リョウの体が重くなった。いつもなら思考するだけで瞬間移動できるのに、まるで現実の肉体のように、重力に縛られている感覚だった。


『ゲーム開始だ』


死神が釜を持ち上げた瞬間、リョウは必死に走り出した。


第六章 逃走


空を飛ぼうとしても、体が浮かない。まるで鉛でも飲み込んだみたいに重くて、地面を走ることしかできなかった。


後ろから、あの不吉な音が追いかけてくる。


コン……コン……コン……


死神の足音だった。ゆっくりだが、確実に距離を詰めてくる。


「クソ!なんで飛べないんだ!」


リョウは住宅街を駆け抜けた。普段なら一瞬で通り過ぎる距離が、永遠に続くように感じられる。


家が見えた。自分の家だ。


窓から差し込む薄明かりが見える。あそこに、自分の肉体が眠っているはずだ。


でも、まだ距離がある。このままでは間に合わない。


コン……コン……コン……


足音が近づく。振り返ると、死神の姿が街灯に照らし出されていた。あの大きな釜を軽々と持ちながら、淡々と歩いてくる。


「なんで……なんでこんなことに……」


リョウは走りながら考えた。なぜ、この状況になったのか。


思い返せば、最初はもっと純粋だった。幽体離脱という不思議な体験に驚き、新しい世界を発見した喜びがあった。でも、いつからか、それは現実逃避の手段になっていた。


つまらない授業、うまくいかない人間関係、将来への不安。そういった現実の問題から目を逸らすために、夜な夜な体を抜け出していたのだ。


『気づいたかな?』


死神の声が頭の中に響いた。まだ距離があるのに、その声ははっきりと聞こえる。


『君は生きることから逃げていた。死んでいるわけではないのに、生きることを放棄していた』


「違う!僕は……」


『違わない。君の昼間を思い出してみろ。どれだけ心ここにあらずで過ごしていた?』


リョウの足が止まった。


確かにそうだった。授業中も、友人との会話中も、バイト中も、いつも心は夜のことを考えていた。早く終わらないかな、早く夜にならないかな、早く自由になりたいな、と。


『君は既に半分死んでいたのだ。私は、その状態を完成させてやろうとしているだけだ』


「でも……でも僕は……」


言葉が出てこない。死神の言うことが、痛いほど正しく思えた。


でも。


「でも僕は、まだ生きたい!」


リョウは再び走り出した。今度は、ただ逃げるためではなく、生きるために。


第七章 本当の重さ


家までもう少しだった。


でも、体がどんどん重くなっていく。まるで全身に鎖を巻かれているみたいに、一歩一歩が辛い。


コン……コン……コン……


死神の足音は、もうすぐ後ろまで迫っていた。


「あと少し……あと少しで……」


そのとき、リョウは気がついた。自分が何かを引きずっていることに。


振り返ると、無数の糸のようなものが自分の体に絡みついていた。でも、それはシルバーコードじゃない。もっと暗く、重いものだった。


『それは君の後悔だ』


死神の声が、すぐ近くから聞こえた。


『サボった授業、無視した友人、投げ出した責任、逃避した現実。全てが糸となって、君を引きずり下ろしている』


リョウは膝をついた。もう一歩も進めない。


『重いだろう?それが、君の本当の重さだ』


「重い……重いよ……」


リョウは涙を流した。幽体なのに、確かに涙が頬を伝った。


「でも……でも僕は……」


『諦めるのか?』


「諦めない!」


リョウは立ち上がった。体に絡みつく糸を、一本ずつ引きちぎり始めた。


「これは……高校時代、友達の相談を聞いてやれなかったこと」


一本目の糸が切れた。


「これは……大学で、グループワークをサボったこと」


二本目が切れた。


「これは……母さんの誕生日を忘れたこと」


三本目が切れた。


一本切るたびに、体が少しずつ軽くなっていく。でも、糸はまだまだたくさんある。


『無駄だ』死神が嘲笑った。『君の後悔は無限にある。全てを清算することなど不可能だ』


「でも、やるしかない!」


リョウは必死に糸を切り続けた。一本、また一本と。


でも、死神の言う通りだった。切っても切っても、新しい糸が現れてくる。まるで底なし沼のように、際限がない。


そして、ついに死神がリョウの前に立った。


『終わりだ』


死神が釜からシルバーコードを取り出した。それは確かに、リョウと肉体を繋ぐ最後の糸だった。


第八章 最後の気づき


『さあ、これで君も他の者たちの仲間入りだ』


死神がシルバーコードに手をかけた瞬間、リョウは叫んだ。


「待って!一つだけ聞きたい!」


死神の手が止まる。


「ユキたちは……本当に死んだの?」


『肉体は生きている。しかし、魂は戻らない。植物人間というやつだ』


「そんな……」


『彼らは最期まで、現実に戻りたがった。しかし、後悔の重さに押しつぶされて、動くことができなかった』


リョウの脳裏に、ユキの笑顔が浮かんだ。いつも明るくて、場を盛り上げてくれる彼女。でも、現実では何に悩んでいたんだろう?


「ユキは……ユキは何に後悔してたの?」


『彼女は両親との関係に悩んでいた。期待に応えられない自分を責め続けていた。そして、その痛みから逃れるために、こちらの世界に入り浸っていた』


タカシは?ケンジは?


『みんな同じだ。現実の痛みから逃げるために、幽体離脱を利用していた』


リョウは理解した。幽体離脱自体が悪いわけじゃない。でも、それを現実逃避の手段として使い続けることで、どんどん現実と向き合う力を失っていく。そして最終的に、現実に戻ることができなくなってしまう。


『君も同じ道を辿った。もう手遅れだ』


死神がシルバーコードを引っ張った。糸がピンと張られる。


でも、その瞬間、リョウは気がついた。


自分を引きずっていた後悔の糸が、全て消えていることに。


「あれ?」


見下ろすと、体が軽やかになっていた。さっきまで重くて動けなかったのに、今は羽のように軽い。


『なぜだ?』


死神も困惑しているようだった。


リョウには分かった。さっき、後悔の糸を一本一本切っていたとき、ただ切っていただけじゃなかった。その一つ一つと向き合っていたのだ。


逃げずに、認めていた。


「僕は確かに後悔してる」リョウは言った。「でも、それは僕が生きてるからだ。死んでしまったら、もう償うこともできない」


『…………』


「ユキたちを助けたい。タカシもケンジも。みんなを現実に戻してやりたい」


『不可能だ。一度切られたシルバーコードは、二度と繋がらない』


「じゃあ、僕が彼らの分まで生きる」


リョウは死神を見つめた。恐怖はもうなかった。


「現実は確かに辛いことばかりだ。でも、それでも生きる価値がある。僕はそう思う」


死神の暗闇が揺らめいた。


『……君は、他の者たちとは違うようだな』


「違う?」


『彼らは最期まで、現実を拒絶していた。でも君は、受け入れようとしている』


死神がシルバーコードから手を離した。


『今回だけは、見逃してやろう』


エピローグ 朝の光


気がつくと、リョウは自分のベッドで目を覚ましていた。


「夢……だったのか?」


でも、そうじゃないことは分かっていた。あまりにもリアルすぎた。そして何より、心に残る重みが違った。


窓の外では、朝日が昇り始めていた。いつもなら憂鬱になる朝の光が、今日はなぜか美しく見える。


リョウは起き上がって、カーテンを開けた。


「今日から、ちゃんと生きよう」


その日から、リョウの生活は変わった。授業にはきちんと出席し、友人との会話も心から楽しむようになった。バイト先でも、お客さんとの何気ない会話に温かさを感じるようになった。


母親が驚くほど、家族との時間も大切にするようになった。


「リョウ、最近明るくなったわね」


夕食の席で、母親が微笑みながら言った。


「そうかな」


「ええ、前は何かボーっとしてることが多かったけど、最近は生き生きしてる」


リョウは苦笑いを浮かべた。「今まで、ちゃんと生きてなかったからかも」


そして夜。


リョウはベッドに横になりながら、天井を見つめていた。


もう幽体離脱はしなかった。というより、する必要を感じなくなっていた。現実がつらいものではなく、生きる価値のあるものに変わったから。


でも、時々思う。あの廃校の体育館で、一人ぼっちで彷徨っているかもしれない誰かのことを。ユキやタカシ、ケンジのような人たちのことを。


「いつか、みんなを助けられる方法を見つけたい」


リョウは自分に誓った。


そして、安らかな眠りについた。今度は、逃避のためではなく、明日という新しい一日への準備として。


窓の外で、夜が静かに更けていく。


でも、その闇はもう、リョウにとって恐ろしいものではなかった。


なぜなら彼は知っていたから。


どんなに暗い夜でも、必ず朝は来るということを。


そして、生きているということは、その朝を迎える権利があるということを。

※この作品はAIで創作しています。