億万長者の災い
第一章 普通の男の異常な朝
「うわ、やべぇ!遅刻する!」
田中健太(28歳、独身、趣味はアニメ鑑賞とゲーム)は、いつものように目覚ましを三回スヌーズした結果、会社に遅刻しそうになっていた。
慌てて歯を磨きながら、スマホで銀行アプリを開く。給料日の翌日だから、残高は大体15万円くらいのはず――
「んぐっ!?」
歯ブラシを口に突っ込んだまま、健太は画面を二度見した。いや、三度見、四度見してもまだ信じられない。
口座残高:1,250,000,000円
十二億五千万円。
「バ、バグ?」
歯磨き粉の泡をぺっと吐き出して、慌ててアプリを再起動する。でも、数字は変わらない。
「おかしい……絶対におかしい……」
健太の月収は手取り20万円。ボーナスを含めても年収300万円程度のしがないIT企業のプログラマーだ。こんな大金を持っているわけがない。
会社への遅刻なんてどうでもよくなって、健太は銀行に電話をかけた。
「お忙しい中、ありがとうございます。三菱東京UFJ銀行、お客様相談室の佐藤と申します」
「あ、あの!口座の残高がおかしいんです!」
「かしこまりました。まず、お客様の口座番号を教えていただけますでしょうか」
一通りの本人確認を済ませた後、佐藤さんは淡々と答えた。
「確認いたしました。昨日の午前2時47分に、12億4千985万円がお客様の口座に振り込まれておりますが、何かご不明な点がございますでしょうか?」
「いや、不明も何も!僕そんなお金心当たりないんです!誰が振り込んだんですか?」
「申し訳ございませんが、振込人の詳細はお答えできかねます。ただ、海外の金融機関からの送金であることは確認できます」
海外?健太には海外に知り合いなんて一人もいない。英語だって中学レベルだし、パスポートすら持っていない。
「と、とにかく!これは間違いです!返金してください!」
「承知いたしました。では正式な手続きのため、お時間のある時に支店までお越しください。詳しい調査をさせていただきます」
電話を切った健太は、頭を抱えた。
「なんだよこれ……ラノベみたいな展開だな」
そう呟いた瞬間、玄関のドアホンが鳴った。
第二章 異常事態の始まり
ドアホンのモニターを見ると、見知らぬスーツの男が二人立っている。一人は日本人らしいが、もう一人は明らかに外国人だった。
「はい……?」
「田中健太さんでしょうか。私、山田と申します。少しお話があるのですが」
山田と名乗った男の声は妙になめらかで、営業マンのような人懐っこさがあった。でも、健太の直感が警告を発している。
「すみません、今忙しくて……」
「12億円の件でお伺いしました」
健太の血の気が引いた。なぜこの男が銀行の件を知っている?
「ち、ちょっと待ってください!あなた方は誰なんですか?」
「それも含めて、お話しさせていただきたく。開けていただけませんか?」
チェーンロックをかけたまま、健太は恐る恐るドアを少しだけ開けた。
山田という男は30代後半くらいで、整った顔立ちをしている。でも、その笑顔の奥に何か冷たいものが潜んでいるのを健太は感じ取った。
「あの……まず身分証明書を見せてもらえませんか?」
「もちろんです」
山田が差し出した名刺には『山田誠 - 国際調査機関』と書かれている。
「国際調査機関って何ですか?」
「簡単に言うと、国際的な金融犯罪を取り扱う組織です。田中さんの口座に振り込まれた資金は、実は我々が追跡している資金なんです」
「え……?」
「詳しくは中でお話しします。近所の方にも聞かれるといけませんから」
健太は迷った。でも、このまま玄関先で話すのも気が引ける。
「……分かりました。でも、チェーンロックは外しません」
「構いません」
健太がリビングに案内すると、山田は慣れた様子でソファに座った。
「田中さん、昨夜よく眠れましたか?」
「は?」
「12億円も口座に入っていれば、普通は眠れないものですが」
健太は困惑した。この男は一体何を知っているんだ?
「あの、率直に聞きますが……その12億円って、何のお金なんですか?」
山田は微笑みを浮かべた。しかし、その笑顔には温かみがまったくない。
「麻薬取引の資金です」
「は?」
「南米の麻薬カルテルが、東南アジアの武器商人に支払うはずだった資金です。それが何らかの理由で、田中さんの口座に入ってしまった」
健太の頭が真っ白になった。
「ちょっと待ってください!僕は何も知りません!ただの会社員です!」
「我々もそう思っています。恐らく、誰かが意図的に田中さんを巻き込んだのでしょう」
「誰が?なんで?」
「それを調べているところです。ただ、一つ言えることは……」
山田は立ち上がって、窓の外を見た。
「その資金を失った人たちが、必ず取り返しに来るということです」
健太の背筋に冷たいものが走った。
「そ、それって……」
「ええ、田中さんの命が狙われる可能性が高い。今すぐにでも」
その時、玄関のドアをノックする音が響いた。
今度は荒々しく、執拗なノック。
山田の表情が一瞬で変わった。
「田中さん、裏口はありますか?」
「え?あ、はい……」
「今すぐそこから逃げてください。私たちが時間を稼ぎます」
「ちょっと待ってください!何が起こってるんですか!?」
玄関のドアを蹴る音が響く。
「説明は後です!とにかく逃げて!」
山田が拳銃を取り出すのを見て、健太は現実を理解した。
これは冗談じゃない。本当に命の危険があるんだ。
健太は裏口から飛び出した。
第三章 追跡者たち
マンションの裏階段を駆け下りながら、健太は混乱していた。
なんで僕がこんな目に?ただの平凡なプログラマーなのに?
階段を降りきったところで、黒いワゴン車が止まっているのが見えた。運転席には外国人の男が座っている。
健太は急いで反対方向に走った。
背後から銃声が聞こえた。山田たちが戦っているのだろう。
「やばいやばいやばい!」
健太は必死に走った。こんなに走ったのは中学の体育祭以来だ。
駅まで走って、とりあえず電車に飛び乗る。どこでもいい、とにかく逃げなければ。
電車の中で、健太は状況を整理しようとした。
・口座に12億円が振り込まれた
・それは麻薬取引の資金らしい
・謎の組織が僕を狙っている
・山田という男が助けてくれた(?)
「でも、山田って人も信用できるのかな……」
健太はスマホで『国際調査機関』を検索してみた。しかし、それらしい組織の情報は出てこない。
「嘘だったのかな……」
電車が新宿駅に着いた時、健太は決心した。とりあえず銀行に行って、お金を返そう。そうすれば元の生活に戻れるはずだ。
新宿の三菱東京UFJ銀行の支店に着くと、健太は窓口で事情を説明した。
「昨日電話でお話しした田中です。12億円の件で……」
窓口の女性は困った顔をした。
「田中様、実は……」
「実は?」
「警察の方がお見えになっていまして」
健太の心臓が止まりそうになった。警察?
「こちらです」
案内された応接室には、刑事らしい男が二人座っていた。
「田中健太さんですね。警視庁捜査二課の佐々木です」
「け、警察の方ですか?」
「はい。あなたの口座に振り込まれた資金について、お聞きしたいことがあります」
健太は正直に事情を話した。心当たりがないこと、今朝方変な男たちが来たこと、襲われそうになったこと。
しかし、佐々木刑事の表情は厳しかった。
「田中さん、その『山田』という男の名刺はお持ちですか?」
「あ、はい……」
健太が名刺を差し出すと、佐々木刑事は苦笑いした。
「これ、偽物ですね」
「え?」
「『国際調査機関』なんて組織は存在しません。恐らく、あなたを騙そうとした詐欺師でしょう」
健太の頭が混乱した。じゃあ、山田は敵だったの?
「それより田中さん、正直に答えてください。本当に心当たりはありませんか?」
「ありません!」
「海外に知人は?」
「いません!」
「最近、怪しいメールやSNSでの接触は?」
「……あ」
健太は思い出した。一週間前、Twitterで変なDMが来たことを。
「どんな内容でしたか?」
「えーっと……『あなたのプログラミングスキルに興味があります。高額報酬の案件があります』って感じの」
「返事は?」
「無視しました。怪しいと思ったので」
佐々木刑事は部下と目配せした。
「田中さん、恐らくあなたは知らないうちに犯罪に巻き込まれています。詳しく調べる必要があるので、しばらく警察で保護させていただきます」
「保護って……」
その時、銀行の窓ガラスが割れる音がした。
外から銃声が聞こえる。
「伏せろ!」
佐々木刑事が健太を押し倒した瞬間、応接室のドアが蹴破られた。
現れたのは、朝方健太のマンションにいた外国人の男だった。
男は拳銃を構えている。
「田中健太、お前が俺たちのカネを盗んだな」
「違います!僕は何も――」
「黙れ!カネを返せ!」
佐々木刑事が拳銃を抜いて応戦しようとした瞬間、別の方向から新たな銃声が響いた。
窓の外から狙撃されたのか、外国人の男が倒れる。
その隙に、佐々木刑事が健太を引っ張った。
「逃げるぞ!」
銀行の裏口から外に出ると、黒いセダンが待っていた。
「乗れ!」
運転席にいたのは、山田だった。
「山田さん!」
「説明は後だ!とにかく乗れ!」
健太は混乱したが、選択の余地はなかった。
第四章 真実の一端
山田の車は新宿の交通渋滞を縫うように走った。
「山田さん、あなたは一体……」
「国際調査機関は確かに存在しない。でも、俺は嘘をついたわけじゃない」
山田はバックミラーを確認しながら答えた。
「俺は元公安調査庁の人間だ。今は退職しているが、この件に個人的に関わっている」
「個人的に?」
「田中、お前の口座に金を振り込んだのは俺だ」
健太は耳を疑った。
「え?」
「正確には、俺が追跡していた犯罪組織の資金を、お前の口座に迂回させた」
「なんで僕の口座に?」
山田は苦い表情を浮かべた。
「それが一番安全だと思ったからだ。お前みたいな一般人の口座なら、しばらく気づかれないと思った」
「勝手すぎます!」
「すまない。でも、これには理由がある」
車は高速道路に入った。どこに向かっているのかも分からない。
「田中、お前の父親の名前は田中一郎だったな?」
健太は驚いた。父の名前をなぜ知っている?
「父は10年前に亡くなりました。病気で」
「いや、違う」
山田の声が低くなった。
「お前の父親は殺された」
「は?」
「田中一郎は表向きは商社マンだったが、実際は政府の非公式エージェントだった。東南アジアの麻薬ルートを調査していた」
健太の世界観が崩れていく。
「そんな……父は普通のサラリーマンでした」
「10年前、父親は大きな発見をした。日本の政治家や実業家が、麻薬取引に関わっているという証拠を掴んだんだ」
「証拠って?」
「それがお前の口座に振り込まれた12億円だ」
健太は混乱した。
「どういうことですか?」
「その12億円は、日本の政治家が麻薬カルテルに支払った資金の一部だ。父親がそれを隠し口座に移していた。証拠として」
「でも、父の死後10年も経ってるのに、なんで今になって……?」
「最近、その政治家たちが動き始めたんだ。証拠隠滅のために。そして俺は、父親が隠した資金と証拠を見つけた」
山田はパーキングエリアに車を停めた。
「田中、お前は父親の遺志を継ぐか?それとも普通の生活に戻るか?」
「父の遺志って?」
「この国の闇と戦うことだ」
健太は答えに窮した。朝起きた時はただの平凡なプログラマーだったのに、夕方には国家的陰謀に巻き込まれている。
「僕には無理です。ただの一般人ですから」
「そうか……」
山田は残念そうに頷いた。
「なら、証拠を警察に渡して、お前は新しいアイデンティティで別の場所で暮らすことになる。もう田中健太としては生きられない」
「え?」
「相手は政治家だ。お前を消すことなんて簡単にやってのける。普通の生活は諦めろ」
健太は絶望した。
「そんな……」
その時、山田のスマホが鳴った。
「はい……何?……マジか」
山田の表情が変わった。
「田中、お前のマンションが爆破された」
「え?」
「隣の部屋の住民が巻き込まれて、三人死んだ」
健太の膝が震えた。
もし逃げていなかったら、僕も死んでいた。そして、何の罪もない隣人まで……。
「畜生……」
健太の中で何かが変わった。
怒りが湧き上がってきた。
「山田さん」
「何だ?」
「やります。父の遺志を継ぎます」
山田は微笑んだ。今度は本物の笑顔だった。
「そう来なくちゃな。じゃあ、まずはお前を戦えるように鍛えないとな」
「戦える?」
「プログラマーのスキルを活かした戦い方がある。サイバー戦争だ」
健太は決意を固めた。
父の死の真相を知り、その敵を倒す。
もう後戻りはできない。
第五章 デジタル戦士への変貌
山田に連れられて着いたのは、都心から離れた古いビルの地下だった。
「ここは?」
「俺の秘密基地みたいなもんだ」
地下に降りると、そこには最新のコンピューター機器が所狭しと並んでいた。
「すげぇ……」
「お前のプログラミングスキルを見せてくれ」
山田が指差したのは、複数のモニターが並ぶワークステーションだった。
健太が座ってキーボードに触れると、久しぶりに安心感を覚えた。これが自分の居場所だ。
「何をすればいいですか?」
「まず、敵の正体を突き止める。お前の口座に金を振り込んだルートを逆探知するんだ」
健太は集中してコードを書き始めた。銀行のシステムに侵入するのは違法だが、今更法律なんてどうでもいい。
「おぉ……」
山田が感心した声を上げた。健太の指がキーボードの上を踊るように動いている。
「見つけました」
「早いな。何が分かった?」
「振込みルートは複数の海外銀行を経由してますが、最初の送金者は……」
健太の顔が青ざめた。
「日本の国会議員、鈴木大蔵大臣です」
「やはりな」
山田は満足そうに頷いた。
「鈴木は15年前から東南アジアの麻薬組織と繋がりがある。お前の父親がそれを突き止めたんだ」
「でも、なんで今になって……?」
「来月、鈴木は総理大臣候補として出馬する予定だった。過去の犯罪がバレるわけにはいかない」
健太はさらにシステムを探った。
「他にも……企業の会長、テレビ局のプロデューサー、警察幹部……みんな繋がってますね」
「そうだ。お前の父親は巨大な犯罪ネットワークを発見していた。だから消された」
健太の怒りが頂点に達した。
「許せない……」
「復讐するなら、今がチャンスだ。お前のスキルがあれば、奴らの犯罪を世界中に暴露できる」
健太は決意を固めた。
「やりましょう。どうすれば?」
「まず、奴らの資金の流れを全部暴露する。そして、過去の犯罪記録を掘り起こす」
それから数時間、健太は夢中でコードを書き続けた。
敵のサーバーに侵入し、証拠となるファイルをコピーし、追跡を回避するプログラムを作成する。
「田中、お前天才だな」
「プログラミングだけが取り柄ですから」
「謙遜するな。お前は今、日本の政治を変えようとしてるんだ」
午前3時頃、ついに準備が整った。
「よし、行くぞ」
健太がエンターキーを押すと、鈴木大蔵大臣をはじめとする政治家たちの犯罪記録が、日本中のメディア、警察、検察、そして海外のジャーナリストに一斉送信された。
「やったぁ!」
健太は興奮した。人生で初めて、本当に意味のあることをした気がした。
しかし、山田の表情は険しかった。
「田中、これで終わりじゃない。むしろ始まりだ」
「え?」
「奴らは本気で俺たちを消しに来る。覚悟はできてるか?」
その時、地下室の入り口から爆発音が聞こえた。
「もう来たのか!」
山田が拳銃を構えた。
「田中、裏口から逃げろ!」
「山田さんも一緒に!」
「俺は時間を稼ぐ。お前は生き延びて、真実を世界に伝えるんだ!」
健太は迷ったが、山田の真剣な表情を見て頷いた。
「分かりました!」
第六章 最後の戦い
健太は裏口から逃げ出したが、すぐに追手に囲まれた。
「観念しろ、田中健太」
男の声は冷たく、容赦がなかった。
「お前のせいで我々の計画が台無しだ」
健太は震えながらも、スマホを握りしめていた。まだやれることがある。
「待ってください!僕には最後の切り札があります!」
「何だと?」
「今から全国に生中継します。あなたたちが僕を殺すところを」
健太はスマホでライブ配信アプリを起動した。既に数百人が視聴している。
「みなさん、僕は田中健太です。今、政治家の犯罪を暴露したために殺されそうになっています」
男たちが慌てて止めようとしたが、健太は続けた。
「鈴木大蔵大臣をはじめとする政治家が、麻薬取引に関わっています。僕の父はそれを調べていて殺されました。そして今、僕も――」
銃声が響いた。
しかし、倒れたのは健太ではなく、男の一人だった。
「田中!」
山田が現れた。血まみれだが、まだ立っている。
「山田さん!」
「まだ終わってない!配信を続けろ!」
山田と残りの男たちが撃ち合いになった。
健太は配信を続けながら、リアルタイムで証拠ファイルをアップロードした。
「みなさん、これが証拠です!」
視聴者数は1万人を超えていた。コメント欄には応援のメッセージが溢れている。
『頑張れ!』
『真実を暴露しろ!』
『警察に通報した!』
やがて、サイレンの音が聞こえてきた。
本物の警察が到着したのだ。
男たちは逃げ去り、山田が健太のところに駆け寄った。
「やったな、田中」
「はい……でも、これで終わりですか?」
「いや、まだ始まったばかりだ。でも、お前は立派にやった」
その後、健太の配信は数百万回再生され、社会問題となった。
鈴木大蔵大臣は辞職し、関係者は次々と逮捕された。
エピローグ 新しい人生
半年後、健太は新しい仕事に就いていた。
政府のサイバーセキュリティ部門で、犯罪組織のハッキングを防ぐ仕事だ。
「田中さん、新しい案件です」
同僚が声をかけてきた。
「どんな案件ですか?」
「海外の詐欺グループが、日本人の銀行口座を狙ってるみたいです」
健太は苦笑いした。
「よくある話ですね」
オフィスの窓から見える景色は、以前と同じ東京の街並みだった。
でも、健太にとってはまったく違って見えた。
父の死の真相を知り、自分なりに正義を貫いた。
あの12億円は結局、証拠として警察に没収された。健太の手元には一円も残っていない。
でも、それでよかった。
お金よりも大切なものを手に入れたから。
「田中さん、今度の休みに飲みに行きませんか?」
「あ、はい。ぜひ」
健太は微笑んだ。
普通の生活が、こんなにも貴重だったなんて知らなかった。
でも、いつでも戦う準備はできている。
父の意志を継いで、この国の正義を守るために。
スマホに通知が来た。
山田からのメッセージだった。
『新しい事件だ。また手伝ってくれるか?』
健太は迷わず返事を打った。
『もちろんです。正義のためなら』
平凡だった田中健太の人生は、確実に変わっていた。
億万長者になることはなかった。
でも、それよりもずっと価値のあるものを手に入れた。
自分の人生に意味を与える、使命を。
「よし、また頑張るか」
健太は新しい事件ファイルを開いた。
画面には、また新たな陰謀の文字が踊っていた。