青空AI短編小説

登録日時：2025-06-26 15:17:05 更新日時：2025-06-26 15:17:05

私は、三葉の写真を見た。幼年、学生、そして、もはや年齢すら判別できないほどに変わり果てた男の姿。どの写真にも共通するのは、私をぞっとさせる、得体の知れない「不愉快さ」だった。特に、最後の写真に写る、表情すら失われた顔は、人間の本質から遊離した、異質な存在を私に感じさせた。

「恥の多い生涯を送って来ました。」

男の手記は、そう始まる。彼の言葉は、私の心を深く揺さぶった。人間というものが理解できない。空腹の感覚すらわからない。世間の幸福の観念と、自身のそれとが、まるで食い違っているという不安。その不安から逃れるために、彼は「道化」を演じ続けたのだという。

私は、彼の道化を想像する。家族を笑わせ、下男や下女にまで必死のサービスをする姿。真夏に毛糸のセーターを着て廊下を歩く。それは、彼にとっての唯一の救いであり、人間との繋がりを保つための細い糸だったのだろう。しかし、その道化の裏には、狂うほどの恐怖と、誰にも理解されない孤独が隠されていた。肉親にさえ本心を語れず、他人の非難を黙って受け入れる。その姿は、あまりにも痛ましく、私の胸を締め付けた。

---

竹一の眼差し

中学時代、彼の完璧な道化を唯一見破った少年、竹一。「ワザ。ワザ。」その一言が、彼の世界を一変させた。見破られる恐怖。それは、彼にとって地獄の業火に包まれるような感覚だったに違いない。しかし、同時に、彼は竹一に「仲間」を見出した。人間への恐怖から逃れるための、新たな道。それは、絵を描くことだった。「お化けの絵」を。人間の化け物に傷つけられ、脅かされた画家たちが、幻影を信じ、見たままを表現した絵。そこに、彼は自身の陰惨な本性を重ねた。

竹一は、彼に二つの予言を与えた。「お前は、きっと、女に惚れられるよ」「お前は、偉い絵描きになる」。この予言は、彼のその後の人生を大きく左右することになる。東京へ出て、彼は酒、煙草、そして淫売婦を知る。それらは、一時的に人間恐怖を紛らわすための手段だった。特に、淫売婦の懐の中で、彼は安らぎを見出した。彼女たちは、彼にとって人間でも女性でもなく、白痴か狂人のように見えた。その純粋な好意に、彼はマリアの円光さえ見たという。

---

破滅への序曲

しかし、道化の仮面は、いつしか彼の本性を覆い隠すことができなくなっていた。堀木に指摘された「女達者」の匂い。それは、彼の孤独な魂が、女性たちに本能的に嗅ぎ当てられた結果だったのかもしれない。そして、共産主義の読書会。彼はそこにも、非合法という居心地の良さを見出した。世間の合法というものの底知れない恐ろしさから逃れるように、彼は非合法の海へ飛び込んだ。だが、それもまた、彼の破滅への序曲に過ぎなかった。

金銭の困窮、そして、過酷な運動の任務。彼の病弱な体は限界を迎えていた。そして、有夫の婦人との情死未遂。彼の人生は、一変した。彼は、もはや道化を演じる気力も失い、ただ死を願うばかりだった。しかし、彼の周りには、彼に好意を寄せる女たちがいた。下宿屋の娘、同志の女、そして、銀座のカフェの女給。彼らは、彼の孤独な魂に寄り添おうとした。だが、彼は、彼女たちの言葉を理解できなかった。彼の心は、あまりにも深く、人間の営みから遊離していたのだ。

ツネ子との出会い。彼女は、彼と同じように、孤独を抱えた女だった。彼女の身の上話には興味が持てなかったが、その無言の侘しさに、彼は共感を覚えた。水底の岩に落ち付く枯葉のように、彼女の傍にいると、恐怖からも不安からも離れることができた。それは、彼にとって、束の間の幸福だった。しかし、この幸福もまた、長くは続かなかった。彼の生は、常に破滅へと向かっていたのだ。

※この作品は、青空文庫（https://www.aozora.gr.jp/）で公開されている以下の作品を利用して、AIで創作しています。