時空を超えた追跡劇
第一章 消えた犯罪者
「フレッド、これを見てくれ!」
親友のバスが興奮した声で叫んだ。僕たちは時空警察の本部にいた。巨大なホログラムディスプレイには、時空の歪みを示す赤い警告マークが点滅している。
「何だって?」僕は駆け寄った。
「ボックスが脱走したんだ。しかも…」バスの顔が青ざめた。「時間軸操作装置を盗んでいった。」
ボックス。その名前を聞いただけで背筋が凍る。未来から来た犯罪者で、歴史を改変して自分の理想とする世界を作り上げようとしている危険人物だ。
「どこに向かった?」
「分からない。でも時空の歪みから判断すると…古代エジプトかもしれない。」
僕は腰に提げた時空移動装置を確認した。「よし、追いかけよう。」
「待てよ、フレッド。」バスが僕の肩を掴んだ。「君一人では危険すぎる。」
「でも他に誰が…」
「俺も一緒に行く。」バスの目に決意が宿っていた。「親友を一人で危険な任務に送るわけにはいかない。」
僕は感謝の気持ちを込めて彼の手を握った。「ありがとう、バス。」
第二章 ピラミッドの謎
古代エジプト、紀元前2560年。
灼熱の太陽の下、巨大なピラミッドの建設現場に僕たちは降り立った。数千人の労働者が石材を運び、職人たちが精密な作業を続けている。
「ボックスの痕跡を探そう。」僕は周囲を見回した。
その時、建設現場で異変が起きた。労働者たちが突然、現代的な建設機械を使い始めたのだ。
「まずい!」バスが叫んだ。「ボックスが歴史を改変し始めた!」
僕たちは急いで建設現場に向かった。そこで見たのは、未来の技術を使ってピラミッドの設計図を書き換えているボックスの姿だった。
「ボックス!」僕は叫んだ。「やめるんだ!」
ボックスは振り返ると、薄笑いを浮かべた。「フレッド君、遅かったね。もう手遅れだ。このピラミッドは私の設計通りに建設される。歴史は変わるのだ。」
「何のために!」
「完璧な世界を作るためだ。」ボックスの目が異様に光った。「君たちのような無能な時空警察では理解できないだろうがね。」
僕は時空移動装置を構えた。「逃がさない!」
しかし、ボックスは既に次の時代へと姿を消していた。
「くそっ!」バスが地面を叩いた。「どこに向かった?」
僕は装置の履歴を確認した。「中世ヨーロッパ…1347年だ。」
第三章 城の姫君
中世ヨーロッパ、1347年。
石造りの城の中で、僕たちは美しい姫君と出会った。金色の髪を持つ彼女は、震え声で自己紹介した。
「わ、私はアメリア…この城の…」
「姫様ですね。」僕は丁寧に頭を下げた。「私はフレッド、こちらは親友のバスです。」
「あの…城に見慣れない人が現れて…」アメリアは小さく震えていた。「民が皆、奇妙な行動を…」
バスと僕は顔を見合わせた。またボックスの仕業だ。
城の外に出ると、農民たちが現代的な農業機械を使っている光景が広がっていた。中世にあるはずのない技術だ。
「ボックスめ…」僕は歯を食いしばった。
「フレッド様…」アメリアが恐る恐る話しかけた。「あの人は…悪い人なのですか?」
「ええ、とても危険な人物です。」僕は彼女を安心させるように微笑んだ。「でも必ず止めます。」
その時、城の塔の上からボックスの声が響いた。
「フレッド君!君たちはまた遅れたね。この時代の技術水準を向上させれば、ペストによる大量死を防げるのだ。これは善行だと思わないかね?」
「歴史を勝手に変える権利が君にあるのか!」僕は叫び返した。
「権利?」ボックスが笑った。「強者が弱者を導くのは当然のことだ。」
アメリアが僕の袖を引いた。「フレッド様…あの人を止めてください。城の皆が苦しんでいます。」
彼女の言葉に胸が痛んだ。僕は必ずボックスを止めなければならない。
再び、ボックスは時空の彼方へと消えていった。
第四章 戦場の少年
第一次世界大戦、1917年。
爆撃の音が響く戦場で、僕たちは一人の少年と出会った。戦争孤児のジャスティンだった。
「お前たち、何者だ!」ジャスティンは鋭い目つきで僕たちを見つめた。年は12歳ほどだが、その眼光は大人のように強い。
「僕たちは…」
「言い訳はいい。」ジャスティンが手を振った。「どうせ大人は皆、嘘つきだ。」
バスが膝を屈めて少年と目線を合わせた。「君の言う通りだ。大人は嘘をつく。でも僕たちは本当のことを言う。」
「何だって?」
「この戦争を悪化させようとしている悪い奴がいるんだ。」僕が説明した。「僕たちはそれを止めようとしている。」
ジャスティンは考え込んだ。「その悪い奴ってのは…黒い服を着た変な男のことか?」
「知っているのか?」
「ああ。昨日、奴は武器商人たちに未来の武器を売っていた。戦争がもっと激しくなるって笑っていたよ。」
僕の血が凍った。ボックスは戦争を激化させて、さらに多くの犠牲者を出そうとしているのだ。
「奴はどこにいる?」
「廃工場だ。」ジャスティンが立ち上がった。「案内してやる。でも…」
「でも?」
「もし嘘をついていたら、容赦しないからな。」
バスが笑った。「君は強い子だな。きっと立派な大人になる。」
ジャスティンの頬が少し赤らんだ。「べ、別に褒められたくて言ったんじゃない。」
第五章 最後の対決
廃工場で、ついに僕たちはボックスと対峙した。
「よくここまで追いかけてきたね。」ボックスが拍手した。「でも、もう遅い。私は十分に歴史を改変した。」
「何のために!」僕は叫んだ。「何のために歴史を変える必要があるんだ!」
ボックスの表情が変わった。「君たちには分からないのか?私は…私は完璧な世界を作りたかっただけなのだ。戦争のない、病気のない、苦しみのない世界を。」
「でも」バスが前に出た。「それは本当の世界じゃない。人間は苦しみから学んで成長するんだ。」
「綺麗事を!」ボックスが激怒した。「君たちは何も理解していない!」
その時、アメリアとジャスティンが現れた。
「フレッド様!」アメリアが叫んだ。「私たちも来ました!」
「どうして…」
「時空移動装置を借りたのさ。」ジャスティンがにやりと笑った。「一人で戦うなんて格好悪いぞ。」
ボックスが時空装置を構えた。「邪魔をする者は皆、消してやる!」
しかし、その時、装置が突然爆発した。
「何だ!」
「時空の歪みが限界を超えたのよ。」アメリアが説明した。「歴史を改変しすぎて、時空そのものが不安定になっている。」
工場全体が崩れ始めた。
「みんな、手を繋いで!」僕は叫んだ。「一緒に現代に戻るんだ!」
フレッド、バス、アメリア、ジャスティン、そして意外にもボックスも、皆で手を繋いだ。
エピローグ 新しい仲間
現代に戻った僕たちは、時空警察本部にいた。
「歴史は元に戻ったの?」アメリアが心配そうに尋ねた。
「ああ。」僕は安堵の笑顔を浮かべた。「全て正常に戻った。」
ボックスは反省の色を見せていた。「私は…間違っていた。完璧な世界など存在しないのだな。」
「でも」バスが彼の肩を叩いた。「君にはやり直すチャンスがある。」
「本当に?」
「時空警察で働かないか?」僕が提案した。「君の知識と技術があれば、本当に世界を良くできるはずだ。」
ボックスは涙を浮かべた。「ありがとう…フレッド。」
アメリアとジャスティンも現代に残ることを決めた。二人とも時空警察の新しいメンバーとなった。
「これから僕たちは仲間だ。」僕は皆を見回した。「一緒に時空を守っていこう。」
「おう!」ジャスティンが元気よく答えた。
「は、はい…」アメリアが照れながら頷いた。
「任せておけ。」バスが胸を張った。
「私も…頑張ります。」ボックスが決意を込めて言った。
こうして、僕たちの新しい冒険が始まった。時空を超えた追跡劇は終わったが、時空を守る戦いは続く。でも、今度は一人じゃない。信頼できる仲間たちと一緒だ。
未来に向かって、僕たちは歩き続ける。