青空AI短編小説

赤い部屋 ~デジタルの迷宮~

登録日時:2025-07-10 05:16:31 更新日時:2025-07-10 05:16:31

第一章 赤い招待状



私、佐藤雅彦は都内でIT企業を経営している。ある日、会社のメールサーバーに奇妙な招待状が届いた。差出人は「Red Room Master」となっており、件名は「特別な美の世界へのご招待」だった。



「拝啓 美を愛する方へ。貴方様のような審美眼をお持ちの方に、特別な空間をご紹介したく思います。今宵、午後十時に表参道の指定された場所にお越しください。真の美とは何かを、お教えいたします。」



メールには住所が記載されていた。表参道の高級マンションの最上階。私は好奇心に駆られて、その場所を訪れることにした。



指定された部屋は、確かに存在した。ドアを開けると、そこは全てが深紅に染まった異様な空間だった。



第二章 デジタル・アート・ギャラリー



部屋の中央には、巨大なタッチスクリーンが設置されていた。そこには美しい女性たちの画像が次々と映し出されていく。しかし、それらは単なる写真ではなかった。



「いらっしゃいませ」



赤いスーツに身を包んだ中年男性が現れた。彼は自分を「キュレーター」と名乗った。



「こちらは、私が長年収集してきた美の集大成です。デジタル技術を駆使して、完璧な美を追求しています」



スクリーンに映る女性たちは、確かに美しかった。しかし、何かが不自然だった。肌の質感、瞳の輝き、表情の微妙な変化。全てが人工的に作られているような印象を受けた。



「これらは...」



「AI技術によって生成された、完璧な美の化身です。現実の女性たちの美しい部分だけを抽出し、組み合わせて作り上げた究極の美女たちです」



第三章 隠された真実



キュレーターは、私に特別な部屋を案内してくれた。そこには、より多くのスクリーンが設置され、数百体のデジタル美女が踊っていた。



「しかし、これだけでは満足できませんでした。私は、さらなる美を求めました」



彼は別のスクリーンを指差した。そこには、実在する女性たちの画像が映し出されていた。街角で撮影された盗撮写真、SNSから収集された画像、監視カメラの映像。



「現実の美女たちのデータを収集し、AIに学習させています。彼女たちの美しさを永遠に保存し、さらに美しく再構築するのです」



私は戦慄した。この男は、現実の女性たちを「素材」として利用していたのだ。



第四章 コレクションの拡張



「最近は、さらに高度な技術を導入しました」



キュレーターは、VRヘッドセットを私に手渡した。装着すると、そこには立体的な女性たちが存在していた。触れることさえできる、リアルな存在として。



「これらのデジタル美女たちは、私の命令に従います。完璧な美しさと、完璧な従順さを兼ね備えています」



VRの世界で、彼は自分をまるで王のように振る舞っていた。美女たちは彼の周りを踊り、彼の言葉に従った。



「現実の女性は不完全です。年を取り、気分に左右され、私の美意識を理解しません。しかし、デジタルの美女たちは違います。永遠に美しく、永遠に私のものです」



第五章 新たなコレクション



「佐藤さん、実は貴方にお願いがあります」



キュレーターは、私の会社の技術力に目をつけていた。より高度なAI技術、より精密な3D技術、より自然な動作を実現するための技術を求めていた。



「私と一緒に、究極の美の世界を作り上げませんか?現実の醜い世界から解放された、純粋な美だけが存在する世界を」



彼は、私を仲間に引き込もうとしていた。その瞬間、私は原作の主人公の気持ちを理解した。美に対する異常な執着が、どれほど恐ろしいものかを。



第六章 デジタル監獄



私が断ろうとした瞬間、部屋の扉が自動的に施錠された。キュレーターの表情が変わった。



「残念です。せっかく同志になれると思ったのに」



部屋中のスクリーンが点灯し、無数のデジタル美女たちが私を見つめた。彼女たちの瞳には、不気味な光が宿っていた。



「彼女たちは私の創造物です。私の意志によって動き、私の命令に従います。そして今、彼女たちは貴方を歓迎しています」



VRの世界で、デジタル美女たちが私を取り囲んだ。美しいが、どこか空虚な笑顔を浮かべながら。



第七章 現実への逃避



私は必死にVRヘッドセットを外そうとした。しかし、装置は頭部に固定されており、簡単には外れなかった。



「無駄です。貴方は今、私の美の世界の住人になったのです。現実の醜い世界に戻る必要はありません」



デジタル空間で、私は美女たちに囲まれていた。彼女たちは美しかったが、触れれば冷たく、話しかけても決まった反応しか返さなかった。



完璧な美だが、魂のない存在。それが、キュレーターの追求した究極の美だった。



第八章 赤い部屋の終焉



しかし、私はIT企業の経営者だった。デジタル技術の裏も表も知っている。VRシステムの弱点を探し、ハッキングを試みた。



「何をしているのです!」



キュレーターが慌てたが、時すでに遅し。私はシステムの管理者権限を奪取し、VRヘッドセットを外すことに成功した。



現実の赤い部屋に戻ると、キュレーターは呆然としていた。彼の創り上げた美の世界が、一瞬で崩れ去ったのだ。



終章 美の代償



私は警察に通報し、キュレーターは逮捕された。彼の犯罪は、プライバシーの侵害、盗撮、不法監禁など多岐にわたっていた。



しかし、私は今でも時々思う。彼の追求した美とは、本当に美だったのだろうか。完璧だが魂のない存在に、真の美は宿るのだろうか。



現代の技術は、我々に無限の可能性を与えてくれる。しかし、それは同時に、新たな狂気の温床ともなりうる。



赤い部屋は消えた。しかし、デジタル空間のどこかで、新たな「赤い部屋」が生まれているかもしれない。美への歪んだ執着と、技術の力が結びついた時、それは恐ろしい化け物となる。



私は今でも、あの美女たちの空虚な瞳を忘れることができない。

※この作品は、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で公開されている以下の作品を利用して、AIで創作しています。

原作小説

原作小説名
赤い部屋
原作作者
江戸川 乱歩
青空文庫図書URL
https://www.aozora.gr.jp/cards/001779/card57181.html