三人の少女と医師のカルテから
あの日、私は「少女地獄」の扉を開いた。医局の片隅に積み上げられたカルテの山、その中に眠る三人の少女たちの記録。まるで、夢野久作先生の描いた世界が、現実のものとして目の前に現れたかのようだった。
最初のカルテは「悪魔の娘」――私を震え上がらせた、あの百合子のものだ。彼女の瞳の奥に潜む狂気と、それでも垣間見える純粋なまでの願い。それは、まさに背徳的な美しさを放っていた。私は彼女を理解しようと、幾夜もカルテを読み返した。そこには、常識では計り知れない、人間の心の深淵が描かれていた。
「死」という名の救済
二番目のカルテは「殺人病室」の患者、つまりは桜井先生を破滅させたあの少女、藤枝の記録だ。彼女の抱える秘密、そして「死」を求めるかのような行動。それは私にとって、理解不能な領域だった。しかし、彼女の内に秘められた絶望の深さを知るにつれて、私は「死」が彼女にとって唯一の救済であったのかもしれないと、考えるようになった。
私は、彼女たちの「地獄」を、医師として、人間として、どう受け止めるべきか自問自答した。彼女たちは、本当に狂っていたのか?それとも、常識という名の檻に閉じ込められていただけなのか?
人形と恋文:第三のカルテの謎
そして、三番目のカルテは「人間レコード」――まるで人形のように無感情でありながら、秘めた恋心を抱く少女、松田の物語だった。彼女が残した恋文は、その無機質な表情からは想像もつかないほど、情熱的で、痛ましかった。私はその恋文を読みながら、彼女の秘めたる想いに胸を締め付けられた。彼女の「地獄」は、外からは見えない、心の奥底に深く隠されていたのだ。
三人の少女たち。それぞれの狂気、それぞれの悲劇。私は医師として、彼女たちを「治療」することはできなかったかもしれない。しかし、彼女たちのカルテを通して、人間の心の複雑さ、そしてその中に潜む純粋な輝きを垣間見ることができた。
この医局は、まさに「少女地獄」だ。しかし、この地獄の中で、私は人間の本質を深く学び、そして、私自身の内なる「地獄」と向き合う勇気を得たのかもしれない。
原作小説
- 原作小説名
- 少女地獄
- 原作作者
- 夢野 久作
- 青空文庫図書URL
- https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card935.html