夢の続き、百年の孤独
私はまた、夢を見た。それは、かつて見た百年の孤独の夢の続きのようであり、しかし、どこかひどく歪んで、恐ろしい様相を呈していた。
第一夜:再びの約束
百年前の女が、再び私の枕元に現れた。彼女は以前と同じように、静かに、しかし有無を言わさぬまなざしで私を見つめている。「あなたは、まだ私を待っていたのですね」私はそう問いかけた。しかし、彼女は答えず、ただ私の手のひらに、小さな白い百合の花を置いた。その花は、百年前のそれと寸分違わぬほど瑞々しく、微かに甘い香りを放っていた。私は悟った。これは、終わりではなかったのだ。私の百年の孤独は、まだ続いているのだと。
第二夜:百年の罪
夢は、唐突に別の情景へと移った。私は、深い霧の中に立っていた。足元には、無数の白骨が散らばり、その一つ一つが、私を見上げているように感じられた。声が聞こえる。「お前は、見過ごしたのだ。百年の間に積み重ねられた、この世の罪を……」それは、かつて私の心を揺さぶった、あの男の声だった。私は震えた。百年の間に、私はただ女を待ち続けただけで、この世界の苦しみから目を背けていたのではないか。その罪が、今、私にのしかかるようだった。
第三夜:無限の問い
私は、どこまでも続く一本道を歩いていた。道の両脇には、色とりどりの花が咲き乱れ、蝶が舞い、鳥が歌う。しかし、私の心は晴れなかった。どんなに歩いても、道の先には何も見えない。終わりなき旅。それは、女を待つ百年の孤独と、どこか似ていた。私は自問した。この道は、どこへ向かっているのだろうか。そして、私は、何を求めているのだろうか。花々の美しさも、鳥の歌声も、私の心には届かない。私は、ただ歩き続けた。
第四夜:真実の光
突然、目の前に強い光が差し込んだ。私は目を閉じ、再び開けると、そこは一面の闇だった。闇の中に、ただ一点、輝く星が見える。その星は、私に向かってゆっくりと近づいてくる。やがて、それは光の塊となり、私を包み込んだ。その瞬間、私の脳裏に、百年の間に忘れ去られていた記憶が鮮明に蘇った。女との出会い、約束、そして別れ。それらは、私がこれまで漠然と抱いていた孤独の正体を示していた。百年の孤独は、決して罰などではなかった。それは、私自身が選んだ、真実を見つめるための時間だったのだ。
第五夜:そして、目覚め
光が消えると、私はベッドの上にいた。朝日が窓から差し込み、部屋を明るく照らしている。夢は終わった。しかし、私の手の中には、百合の花がしっかりと握られていた。それは、夢と現(うつつ)の境界を曖昧にする、確かな証拠だった。私は立ち上がり、窓を開けた。新しい朝の空気は、これまでとは違う、清らかなものに感じられた。私の百年の孤独は、確かに私に何かを教えてくれた。私は、これから、何をすべきか。答えはまだ見つからない。しかし、私は、もう迷わない。百合の花を胸に抱き、私は新たな一日を踏み出した。夢は終わったが、私の人生は、今、新たな始まりを迎えたのだ。
原作小説
- 原作小説名
- 夢十夜
- 原作作者
- 夏目 漱石
- 青空文庫図書URL
- https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card799.html