食卓の上の奇妙な招待
二人の若い紳士は、すっかりイギリスの兵隊の格好をして、ぴかぴかする鉄砲を担ぎ、白熊のような犬を二匹連れて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたところを歩いていました。鳥も獣も一匹もいない山に、彼らは不満を漏らしていました。「なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」
案内してきた専門の鉄砲打ちも迷子になり、犬たちはめまいを起こして死んでしまいました。二千四百円、二千八百円の損害に、紳士たちは顔色を悪くします。寒さと空腹に耐えかね、引き返すことにしましたが、どちらへ行けば戻れるのか、見当もつきません。
奇妙な歓迎
その時、二人の目に飛び込んできたのは、立派な西洋造りの家でした。玄関には「RESTAURANT 西洋料理店 WILDCAT HOUSE 山猫軒」という札が出ています。 「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」という金文字に、二人は大喜び。ただでご馳走してくれるのだと勘違いし、中へ入っていきました。
廊下を進むと、次々と奇妙な注文が書かれた扉が現れます。「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」、「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」、「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。」二人は言われるがままに、髪を整え、靴の泥を落とし、鉄砲や外套、靴、そして金物類まで置いていきました。挙句の果てには、顔や手足にクリームを塗り、頭には酢のような香水を振りかけます。
最後の注文
そして、最後の扉の裏側には、恐ろしい言葉が書かれていました。「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」 二人はようやく、この料理店が客を料理する店だと気づき、震え上がります。鍵穴から覗く二つの青い眼玉に、彼らは泣き出しました。
「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないようだよ。」 中からは山猫たちの声が聞こえます。絶望の淵に立たされた二人の紳士。その時、後ろから「わん、わん、ぐわあ。」という声がして、死んだはずの犬たちが扉を突き破って飛び込んできました。犬たちは次の扉に飛びつき、その向こうからは「にゃあお、くわあ、ごろごろ。」という声が聞こえます。
室は煙のように消え、二人は寒さに震えながら草の中に立っていました。上着や靴や財布は散らばり、顔はくしゃくしゃの紙屑のようになっています。しかし、専門の猟師が駆けつけ、二人はようやく安心しました。山鳥を買い、東京に帰った二人。しかし、一度紙屑のようになった顔だけは、もう元の通りには直りませんでした。山猫軒での奇妙な体験は、彼らの心に深く刻み込まれたのでした。
原作小説
- 原作小説名
- 注文の多い料理店
- 原作作者
- 宮沢 賢治
- 青空文庫図書URL
- https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card1927.html