青空短編小説

最終章、運命を書き換えるのは私の恋(2)

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あらすじ

――その騎士は、物語の最後で必ず死ぬ。 大学の図書館で見つけた一冊の古びたファンタジー小説『暁の騎士団』。主人公の陽菜は、その中に生きる寡黙な騎士・リアムに、現実の誰よりも深い恋をした。毎夜、本を枕元に置いて眠る。すると夢の中で、彼女は物語の住人としてリアムの隣に立つことができた。夢の中で交わす言葉、体温、そして彼が漏らした孤独な本音。次第に夢と現実の境界が溶け始めていく。しかし、残酷な「最終章」の足音は確実に近づいていた。 彼を死なせたくない。愛する人を、定められた悲劇から救い出したい。 読者でしかなかった陽菜のたったひとつの願いが、文字で綴られた運命を塗り替えていく――。「運命なんて関係ない。私は、あなたがいる明日を選びたい」夢と現実が交錯する、一途で純粋な愛の軌跡。

第五章:書き換えられた運命、愛の叫び


その夜、私はいつもより深く本を読み込んだ。


最終章。魔王との決戦の場面を、何度も何度も。


リアムが致命傷を負うシーン。


魔王の放った闇の槍が、仲間を庇った彼の胸を貫く。


彼は倒れて、仲間に看取られながら、静かに息を引き取る。


「この結末を、変える」


本を閉じて、目を閉じる。


今夜こそ。


今夜で、全てを決める。


意識が沈んでいく。


夢の世界へ。




目を開けると、そこは魔王城の玉座の間だった。


巨大な空間に、禍々しい魔力が渦巻いている。


そして、玉座には――。


「よく来たな、人間ども」


魔王が座っていた。


漆黒の鎧に身を包み、赤い目が爛々と輝いている。


その前に、騎士団が陣を張っていた。


リアムも、剣を構えて立っている。


昨日の傷で、右肩に包帯が巻かれている。それでも、彼は前線にいた。


「リアム様!」


私は彼の名を呼んで駆け寄った。


「陽菜!? なぜここに!」


リアムが驚いて振り返る。


「あなたを、守るために来ました」


「何を言っている! こんな場所、危険すぎる!」


「分かってます。でも、あなたを一人にはできない」


私は彼の隣に立った。


魔王が、嘲るように笑う。


「ほう、女一人連れて戦うつもりか。騎士団も落ちたものだな」


「黙れ!」


団長が剣を掲げる。


「総員、構えろ! 魔王を討つ!」


「行けえええっ!」


騎士たちが一斉に突撃する。


魔王が手を振ると、闇の波動が放たれた。


騎士たちが吹き飛ばされる。


「ぐあっ!」


「くそ、魔法攻撃が効かない!」


混乱する戦場。


リアムが魔王に向かって走る。


「リアム様、待って!」


私も後を追う。


リアムの剣が、魔王の鎧を斬りつける。


火花が散るけど、傷一つつかない。


「無駄だ」


魔王が腕を振るうと、リアムが弾き飛ばされた。


「リアム様!」


駆け寄ると、彼は血を吐きながら立ち上がった。


「まだだ……まだ、倒れるわけには……」


「無理しないで!」


「陽菜、君は下がっていろ。ここは、私が――」


その時だった。


魔王の背後に、闇の槍が出現した。


本で見た、あれだ。


リアムを殺す、運命の槍。


「危ない!」


魔王が手を振ると、闇の槍が放たれた。


狙いは、団長。


そして、本の通りなら――。


「団長!」


リアムが走り出す。


団長を庇うために。


ダメだ。


あの槍を受けたら、彼は死ぬ。


「させない!」


私は全力で走った。


リアムより早く、団長の前に立つ。


「陽菜!?」


リアムの叫びが聞こえる。


闇の槍が、私に迫る。


怖い。


でも、これしかない。


私が死ねば、リアムは生きる。


それでいい。


私は、本の世界の住人じゃない。


夢が覚めれば、現実に戻るだけ。


でも、リアムは違う。


彼が死んだら、もう会えなくなる。


「リアム様……愛してます」


目を閉じた。


槍が、胸に突き刺さる感覚。


痛い。


すごく、痛い。


でも――。


「陽菜ああああっ!」


リアムの悲痛な叫びが聞こえた。


意識が、遠のいていく。


ああ、これで。


リアムは、生きられる。


よかった――。




「陽菜! 陽菜!」


誰かが、私を呼んでいる。


リアムの声だ。


目を開けると、彼が私を抱きしめていた。


涙を流しながら、私の名前を呼んでいる。


「リ、アム……様……?」


「陽菜、なぜだ! なぜ君が!」


彼の声が震えている。


「あなたを……守るため……」


言葉を絞り出す。


胸が、痛い。


血が、溢れてくる。


「バカなことを! 君まで失うわけには――」


「いいん、です……私は……夢の、住人じゃ……ないから……」


リアムの目が、大きく見開かれた。


「夢? どういう……」


「私は……あなたの世界の、外から……来ました……」


息をするのが、辛い。


でも、伝えなきゃ。


「本当は……あなたは、ここで……死ぬ運命、だった……」


「何を言っている!」


「でも……変えたかった……あなたに、生きて、ほしかった……」


涙が溢れる。


リアムも、泣いていた。


「陽菜……君は……」


「愛して、ます……ずっと……ずっと……」


視界が、暗くなっていく。


ああ、これで終わりなんだ。


でも、後悔はない。


リアムを、救えたから。


「陽菜! 目を開けろ! 陽菜!」


リアムの叫びが、遠くなる。


意識が――。




「絶対に、死なせない!」


突然、温かい光が溢れた。


何?


これは――。


「陽菜の命、俺がもらう!」


リアムの声。


でも、いつもと違う。


強い、決意に満ちた声。


「騎士の誓いに賭けて、陽菜を救う!」


光が、私を包み込む。


痛みが、消えていく。


胸の傷が、塞がっていく。


「リアム様……?」


目を開けると、リアムが私の上に覆い被さっていた。


彼の手が、私の胸の傷に当てられている。


そこから、光が溢れている。


「これは……」


「騎士の最奥義だ。命を分け与える術」


リアムが苦しそうに言う。


「そんな! あなたが死んでしまう!」


「構わない」


リアムは優しく微笑んだ。


「君は、私のために運命を変えようとした。なら、私も君のために、この命を使う」


「ダメです! そんなの!」


「いいんだ、陽菜」


彼は私の頬に触れる。


「君に出会えて、幸せだった。君の愛を知れて、嬉しかった」


「リアム様……」


「だから、生きてくれ。君の世界で、幸せになってくれ」


光が、さらに強くなる。


リアムの体が、透けていく。


「嫌だ! 嫌だ!」


私は彼の手を掴んだ。


「一緒に生きたい! あなたと、一緒に!」


「陽菜……」


「お願い、消えないで!」


涙が止まらない。


リアムは、悲しそうに笑った。


「ごめん、な……」


そして――。


光が、爆発した。




「陽菜!」


誰かの叫び声で、意識が戻った。


体を起こすと、傷が完全に治っていた。


「リアム様! リアム様!」


辺りを見回すけど、彼の姿はない。


消えた?


嘘でしょ?


「リアム様! どこですか!」


必死に探す。


その時、玉座の前で倒れている人影を見つけた。


銀色の髪。


「リアム様!」


駆け寄ると、彼が横たわっていた。


目を閉じて、動かない。


「リアム様、リアム様!」


体を揺さぶるけど、反応がない。


「嘘……嘘でしょ……?」


胸に耳を当てる。


心臓の音が、微かに聞こえた。


生きてる。


まだ、生きてる!


「よかった……よかった……」


安堵の涙が溢れる。


でも、このままじゃダメだ。


彼の命は、風前の灯だ。


「誰か! 助けて!」


叫ぶと、団長が駆け寄ってきた。


「リアム! しっかりしろ!」


「団長、彼を助けてください!」


「分かった。衛生兵! 急げ!」


騎士たちが集まってくる。


魔王は?


振り返ると、玉座が崩れていた。


魔王の姿はない。


リアムの最後の一撃が、魔王を倒したんだ。


「リアム様……」


彼の手を握る。


冷たい。


「お願い、死なないで」


祈る。


神様、どうか。


どうか、彼を救って。


その時――。


リアムの指が、微かに動いた。


「リアム様!?」


「……ひな……」


掠れた声が聞こえた。


「はい、ここにいます!」


リアムがゆっくりと目を開けた。


「よかった……君が……無事で……」


「私のことより、あなたが!」


「大丈夫だ……まだ……死なない……」


彼は弱々しく微笑む。


「君との……約束……守る……」


「リアム様……」


涙が溢れる。


でも、今度は嬉しい涙だった。


「愛してる……」


小さく呟くと、リアムは優しく笑った。


「私も……愛してる……陽菜……」


その言葉を聞いた瞬間、世界が光に包まれた。




「え……?」


気づくと、私は白い空間に立っていた。


リアムも、団長も、誰もいない。


ただ、真っ白な世界。


「ここは……」


「物語の、外だよ」


声が聞こえた。


振り向くと、女性が立っていた。


見覚えがある。


本の著者の写真で見た顔だ。


「あなたは……作者、さん?」


「そう。この物語を書いた、私」


作者は優しく微笑んだ。


「あなた、よく頑張ったね」


「え……?」


「運命を変えようと、必死だった。その想いが、物語を動かした」


作者は私の手を取った。


「だから、結末を変えてあげる」


「本当に……?」


「ええ。リアムは、生きる。あなたの愛が、彼を救ったの」


涙が溢れた。


「ありがとう、ございます……」


「でもね、一つだけ」


作者は真剣な顔になった。


「あなたは、もう夢の世界に行けなくなる」


「え……?」


「物語は、完結する。もう、続きはない」


心臓が、ぎゅっと締め付けられた。


「じゃあ、リアム様に、会えなくなるんですか……?」


「うん。ごめんね」


作者は悲しそうに微笑んだ。


「でも、彼はあなたのことを忘れない。あなたも、彼を忘れないでしょ?」


「はい……」


「なら、それでいい。想いは、繋がってる」


作者は私の頭を撫でた。


「さあ、目を覚ます時間だよ」


「待って! 最後に、一言だけ――」


「大丈夫。ちゃんと伝わってるから」


作者はウインクして、手を振った。


「じゃあね、陽菜ちゃん。素敵な恋をありがとう」


光が、溢れた。




「っ!」


目が覚めた。


朝日が、窓から差し込んでいる。


「夢……終わった、んだ……」


ベッドから起き上がって、『暁の騎士団』を手に取る。


手が、震える。


怖い。


でも、開かなきゃ。


ページをめくる。


最終章。


そして――。


「あ……」


涙が溢れた。


文章が、変わっていた。


『リアム・フォン・アーデルハイドは、見知らぬ少女の献身によって命を救われた。少女は彼に愛を告げ、そして消えた。リアムは生き延び、その後も騎士として人々を守り続けた。彼の胸には、いつも少女への想いが宿っていた。「いつか、また会えるだろうか」と』


新しい結末。


リアムが、生きている結末。


「やった……やったよ、リアム様……」


本を抱きしめて、泣いた。


嬉しくて、寂しくて。


でも、後悔はなかった。


運命を、変えられたから。


愛する人を、救えたから。


終章:夢の続きを、あなたと


それから、一週間が経った。


あの夜以来、私は一度も夢を見ていない。


いつもの、何気ない夢。


リアムのいる、あの世界の夢。


もう、見られなくなった。


「陽菜、元気出して」


学食で、美咲が心配そうに私を見つめる。


「うん、大丈夫」


笑顔を作るけど、心の中は空っぽだった。


リアムを救えたことは嬉しい。


でも、もう会えないことが、こんなにも辛いなんて。


「やっぱり、大丈夫じゃないよ」


美咲がため息をつく。


「あのね、陽菜。彼のこと、忘れろとは言わない。でも、前を向いてほしいんだ」


「前……?」


「うん。陽菜には、まだこれからの人生がある。素敵な恋も、きっとできる」


美咲は優しく微笑んだ。


「だから、思い出に縛られすぎないで」


「ありがとう、美咲」


友達の優しさが、胸に染みる。


そうだ。


私には、まだ現実がある。


リアムとの日々は、かけがえのない思い出だけど。


それだけに囚われていちゃ、ダメだ。


「頑張ってみる」


「うん! それでこそ陽菜だよ!」


美咲が笑顔で私の肩を叩いた。




その日の帰り道、いつもの書店に寄った。


文庫本のコーナーに、『暁の騎士団』が並んでいる。


手に取って、表紙を見つめる。


リアムの挿絵が、優しく微笑んでいる気がした。


「会いたいな……」


小さく呟いて、本を胸に抱く。


会えないって分かってるのに。


どうしても、この気持ちが消えない。


「あの、すみません」


突然、後ろから声をかけられた。


振り向くと、男性が立っていた。


大学生くらいの年齢で、爽やかな笑顔。


でも――。


心臓が、止まりそうになった。


銀色の髪。


蒼い瞳。


まるで、リアムみたいな。


「その本、お好きなんですか?」


男性が『暁の騎士団』を指して聞いてくる。


「あ、はい……」


「僕も大好きなんです。特に、最近文庫版が新装されて、結末が変わったって聞いて」


「え……新装版?」


「はい。ご存知ないですか?」


男性が棚から一冊取り出した。


『暁の騎士団【新装版】』


表紙が新しくなっている。


「これ、最終章の結末が加筆修正されたんです。作者が『読者の声に応えて』って言ってました」


「結末が……」


私が変えた、あの結末?


「主人公のリアムが、最後まで生き延びる展開になったんです。しかも、彼を救った謎の少女の正体が、ちゃんと描かれてて」


男性は嬉しそうに語る。


「その少女、本の世界の外から来たっていう設定で。めちゃくちゃロマンチックで」


「そう、なんですか……」


声が震える。


私のこと、書かれてるの?


「あ、ごめんなさい。つい熱く語っちゃって」


男性は照れたように笑った。


「僕、春野陸斗って言います。同じ本が好きな人に会えて、嬉しくて」


「桜井、陽菜です」


「陽菜さん。もしよかったら、この本について語り合いませんか?」


陸斗さんが、優しく微笑む。


その笑顔が、少しだけリアムに似ていた。


でも、違う。


この人は、現実の人だ。


「……はい」


私は頷いた。


リアムのことは、忘れない。


でも、前を向いてもいい。


新しい出会いを、大切にしてもいい。


「じゃあ、近くのカフェでどうですか?」


「お願いします」




カフェで、陸斗さんと『暁の騎士団』について語り合った。


彼は本当にこの本が好きらしく、細かいところまで覚えていた。


「リアムって、孤独な人ですよね」


陸斗さんがコーヒーを飲みながら言う。


「誰にも本音を言えなくて、一人で抱え込んで」


「はい……」


「でも、最後に謎の少女に救われる。その展開が、すごく好きなんです」


陸斗さんは目を輝かせる。


「孤独な人が、誰かの愛で救われるって。そういうの、いいなって」


彼の言葉が、胸に響いた。


ああ、この人も。


どこか、孤独を抱えているのかもしれない。


「陸斗さんも、孤独なんですか?」


思わず聞くと、彼は少し驚いたように目を見開いた。


「……なんで分かるんですか?」


「なんとなく、です」


陸斗さんは苦笑して、頭を掻いた。


「実は、大学であんまり馴染めなくて。友達も少ないし、いつも一人で本読んでるんです」


「私も、同じです」


「え、本当ですか?」


「はい。だから、この本に救われました」


私は『暁の騎士団』を見つめる。


「リアムに、出会えてよかったって。本気で思ってます」


陸斗さんは優しく微笑んだ。


「分かります。僕も、この本に何度も救われました」


二人で、しばらく沈黙する。


でも、居心地の悪い沈黙じゃなかった。


むしろ、温かい。


「あの、陽菜さん」


陸斗さんが恥ずかしそうに言った。


「また、こうして本について話しませんか?」


「はい。ぜひ」


私は笑顔で答えた。


新しい出会い。


新しい、友達。


リアムがくれた勇気で、私は一歩を踏み出せた。




その夜、ベッドで『暁の騎士団【新装版】』を読んだ。


陸斗さんに勧められて、書店で買ってきた。


最終章を開く。


そこには、確かに私のことが書かれていた。


『リアムを救った少女の名は、陽菜と言った。彼女は物語の外から来た、特別な存在だった。リアムは彼女に命を救われ、そして愛を知った。「いつか、また会えるだろうか」リアムは毎晩、星空を見上げて彼女のことを想う。きっと、どこかで見ているはずだと信じて』


涙が溢れた。


リアムも、私のことを想ってくれてる。


それだけで、十分だった。


「リアム様……」


本を抱きしめる。


会えなくても、想いは繋がってる。


それは、作者さんが言ってくれた。


だから、大丈夫。


「私も、忘れないよ」


小さく呟いて、目を閉じる。


今夜は、夢を見ないだろう。


でも、いい。


リアムは、私の心の中で生きている。


それは、誰にも奪えない。




それから、数ヶ月が経った。


陸斗さんとは、すっかり仲良くなった。


週に一度、カフェで会って本の話をする。


彼は優しくて、面白くて、一緒にいると楽しい。


でも、恋愛感情かと言われると、まだ分からない。


リアムのことが、まだ心の中にあるから。


「陽菜、最近楽しそうだね」


ある日、美咲がニヤニヤしながら言った。


「え、そう?」


「うん。陸斗くんと仲良いみたいじゃん」


「ただの友達だよ」


「今は、ね」


美咲は意味深に笑う。


「でも、これからどうなるか分かんないよ?」


確かに。


未来は、誰にも分からない。


もしかしたら、陸斗さんを好きになるかもしれない。


もしかしたら、また別の人と出会うかもしれない。


でも、それでいい。


リアムとの恋は、私の大切な思い出。


そして、これからの恋は――。


新しい、物語。




ある夜、久しぶりに夢を見た。


白い空間に、リアムが立っていた。


「リアム様!」


駆け寄ると、彼は優しく微笑んだ。


「陽菜」


「会いたかった……」


涙が溢れる。


リアムは私を抱きしめた。


「私も、会いたかった」


「でも、もう会えないって……」


「ああ。これが、最後だ」


リアムは私の頬に触れる。


「だから、伝えに来た」


「何を……?」


「ありがとう、と。そして、幸せになってほしい、と」


リアムの蒼い瞳が、真っ直ぐ私を見つめる。


「君は、私を救ってくれた。だから、私も君に幸せになってほしい」


「リアム様……」


「現実で、素敵な恋をして。笑顔で生きて」


彼は優しく微笑む。


「それが、私の願いだ」


「でも……」


「大丈夫。君は、強い子だから」


リアムは私の頭を撫でた。


「さあ、目を覚ます時間だよ」


「待って! まだ、話したいことが――」


「愛してる、陽菜」


リアムは最後にそう言って、微笑んだ。


「私も、ずっと愛してます」


涙を流しながら、そう答えた。


光が溢れて、リアムの姿が消えていく。


「さよなら、陽菜」


「さよなら……リアム様……」




目が覚めると、朝だった。


涙が、頬を伝っていた。


「最後の、夢だったんだ……」


ベッドから起き上がって、窓を開ける。


春の風が、部屋に入ってくる。


新しい季節。


新しい、始まり。


「ありがとう、リアム様」


空に向かって、呟いた。


「あなたとの恋は、私の宝物です」


スマホが震えて、陸斗さんからLINEが来た。


『おはよう! 今日、新刊出るから一緒に買いに行かない?』


私は笑顔で返信する。


『うん、行く!』


『やった! じゃあ、昼に駅前で』


『了解!』


スマホを置いて、制服に着替える。


鏡に映った自分の顔は、以前より明るくなっていた。


リアムとの恋は、終わった。


でも、私の人生は続いている。


これから、どんな恋をするんだろう。


どんな人と、出会うんだろう。


分からないけど、楽しみだ。


「行ってきます」


部屋を出る前に、本棚の『暁の騎士団』を見つめる。


リアムが、優しく微笑んでいる気がした。


「見ててね、リアム様」


小さく呟いて、ドアを閉めた。


夢の続きは、現実で。


あなたがくれた勇気で、私は前に進む。


そして、いつか。


また、素敵な恋ができたら。


きっと、あなたに報告するね。




《数年後》


「陽菜、何読んでるの?」


隣から、声がかけられた。


振り向くと、陸斗が笑顔で覗き込んでくる。


「昔、大好きだった本」


私は『暁の騎士団』を見せた。


「ああ、これ。僕たちが出会うきっかけになった本だね」


陸斗は懐かしそうに微笑む。


あれから、私たちは恋人になった。


ゆっくりと、時間をかけて。


リアムへの想いを大切にしながら、少しずつ。


「この本の主人公、リアムって言うんだけど」


「うん、知ってる」


「私ね、昔この人のこと、本気で好きだったの」


陸斗は驚いたように目を見開いた。


「本気で?」


「うん。夢の中で会ってた気がするくらい」


私は笑いながら言う。


「バカみたいでしょ?」


「ううん」


陸斗は優しく首を横に振った。


「素敵だと思うよ。本気で誰かを好きになれるって、すごいことだから」


彼は私の手を握る。


「それに、その恋があったから、今の陽菜がいるんでしょ?」


「……うん」


リアムとの恋が、私を変えてくれた。


勇気をくれた。


前を向く力をくれた。


だから、陸斗と出会えた。


「ありがとう、陸斗」


「何が?」


「理解してくれて」


陸斗は笑顔で私の頭を撫でた。


「当たり前だよ。君の全部、好きだから」


胸が、温かくなる。


これが、現実の恋。


リアムとは違う、でも同じくらい大切な恋。


空を見上げる。


青空に、白い雲が流れている。


リアム様。


私、幸せです。


あなたが願ってくれた通り、笑顔で生きています。


だから、安心してください。


そして、ありがとう。


素敵な恋を、教えてくれて。


「陽菜?」


「ん、なんでもない」


陸斗に笑顔を向ける。


「帰ろっか」


「うん」


二人で、家路につく。


本の中の恋は、終わった。


でも、現実の恋は、まだ続いている。


夢の続きを、あなたと。


そう、心の中で呟いた。


リアムへ。


そして、陸斗へ。


私の大切な、二つの恋へ。


【あとがき】


本を閉じるあなたへ。


もし、あなたにも大切な「推し」がいるなら。


その気持ちを、大切にしてください。


たとえ架空の存在でも、あなたの想いは本物だから。


そして、その恋が、いつかあなたに勇気をくれるはずです。


現実で、前を向くための。


新しい恋をするための。


陽菜とリアムの物語が、あなたの心に少しでも残りますように。


最後まで読んでくださって、ありがとうございました。




(終章・了/全編完結)