抹消された古代遺物~5万年前から届いたエメラルドの秘密~(2)
あらすじ
その石は、人類が手にするには早すぎた。 若き考古学者の卵・篠原ケンジが、山奥の未踏遺跡で発見した巨大な翡翠色の石。それは、既存の考古学を根底から覆す、あまりにも美しく、精密すぎるオーパーツだった。 しかし、歓喜の瞬間は突如として破られる。 現場を包囲したのは、漆黒のスーツに身を包んだ国家安全保障局の特殊部隊。石は「機密事項」として強引に接収され、遺跡の存在自体が公記録から抹消されてしまった。 「深入りするな。君の将来のために」 謎の男からの警告。大学からの圧力。昨日までの日常が、音を立てて崩れていく。 絶望するケンジに、失踪直前の先輩・高橋が託したのは、一枚のUSBメモリだった。そこには、石の内部に刻まれた「地球上のどの言語にも属さない紋様(コード)」の解析データが記録されていた。 解析を進める中で浮かび上がる、衝撃の真実。 その石は単なる遺物ではなく、5万年の時を経て**「何か」を起動させるための記憶媒体**だったのだ。 追っ手の魔の手が迫る中、ケンジはデータの座標が指し示す「次の地」へと向かう。 果たして、その石は古代人が残した救いの光か、それと
第八章:眠れる守護者
目覚め
気がつくと、俺は神殿の床に倒れていた。
「うっ……」
体が重い。まるで、何日も眠っていたかのようだ。
「篠原君!」
声が聞こえた。黒木だ。
「無事か!」
黒木が、駆け寄ってきた。服のあちこちが破れ、腕から血が流れている。
「黒木さん、怪我を……」
「かすっただけだ。それより、お前は大丈夫か」
「ええ、何とか」
俺は、ゆっくりと起き上がった。
周囲を見回す。神殿は、まだ崩れていない。でも、壁にヒビが入っている。
「あいつらは?」
「撤退した。神殿が揺れ始めて、怖気づいたらしい」
黒木が、石を見上げた。
「お前が石に触れた瞬間、何が起きた」
「分かりません。でも、石が……」
俺は、自分の手を見た。
手のひらに、うっすらと紋様が浮かび上がっている。翡翠色の、光る紋様だ。
「これ、何だ……」
「まさか」
黒木が、俺の手を掴んだ。
「お前、石と同調したのか」
「同調?」
「古代文明の記録に、そんな記述があった。石の守護者は、石と一体化すると」
黒木が、真剣な顔で俺を見た。
「お前の体に、石の力が宿ったんだ」
新たな力
神殿を出ると、空は既に夕暮れだった。
「どれくらい、意識を失っていたんだ」
「六時間だ」
黒木が、時計を見た。
「宮城への連絡時刻は過ぎた。明日まで、ここで野営するしかない」
俺たちは、浜辺に戻った。
黒木が持ってきた装備で、簡易的なテントを張る。
「篠原君、試してみろ」
「何をですか」
「石の力だ。お前、今なら石の記憶にアクセスできるかもしれない」
「どうやって」
「目を閉じて、集中してみろ」
言われた通り、俺は目を閉じた。
意識を、手のひらの紋様に集中させる。
すると、視界が開けた。
そこは、神殿の内部だった。でも、俺の体は浜辺にある。
「これ、遠隔視覚……?」
『そうだ』
あの声が、頭の中に響いた。
『お前は今、石とリンクしている』
『石が見たものを、お前も見ることができる』
視点が動く。神殿の奥、石のある場所。
そこから、さらに視界が広がっていく。
島全体が、見えた。
いや、島だけじゃない。
遠く、海の向こうまで見える。石垣島。沖縄本島。さらに、その先。
「なんだ、これ……」
『世界中の石が、ネットワークで繋がっている』
『お前は、そのネットワークにアクセスできる』
視界に、光の点が浮かび上がる。
エジプト、ペルー、中国、インド。世界中に散らばった、石の位置だ。
「全部で、いくつあるんだ」
『十二だ。十二の石が、地球全体をカバーしている』
「それを、全部起動させないといけないのか」
『その通り。順番に起動させれば、災害のパターンが完全に把握できる』
目を開けた。
黒木が、心配そうに俺を見ている。
「どうだった」
「見えました。全ての石の位置が」
俺は、砂浜に世界地図を描いた。
「ここ、ここ、ここ……全部で十二カ所」
「二ヶ月で、十二カ所を回るのか」
黒木が、頭を抱えた。
「物理的に不可能だ」
「いえ、方法があります」
俺は、手のひらの紋様を見た。
「俺が直接行く必要はない。この力を使えば、遠隔で起動できるかもしれない」
「本当か」
「試してみます」
遠隔起動
俺は、再び目を閉じた。
意識を、一番近い石に向ける。
沖縄本島の、山奥にある石だ。
視界が繋がった。
そこは、洞窟の中だった。小さな石が、祭壇に置かれている。
「見えた……」
意識を、石に集中させる。
『起動しろ』
念じた。
すると、石が微かに光り始めた。
ヴゥゥゥン――
振動音が響く。
「やった、起動した!」
目を開けると、手のひらの紋様が強く光っていた。
「成功したのか」
「はい。一つ目の石を起動できました」
黒木が、安堵の表情を浮かべた。
「なら、残りも……」
「いえ、まだです」
俺は、頭を押さえた。
「かなり、消耗しました。一度に全部は無理です」
「そうか。じゃあ、計画的にやるしかないな」
黒木が、ノートを取り出した。
「二ヶ月で十二個。週に一個半のペースだ」
「でも、問題があります」
「何だ」
「遠隔起動できるのは、比較的近い石だけです。遠すぎると、意識が届かない」
「つまり、結局は世界中を回らないといけないのか」
「はい。少なくとも、主要な場所には」
黒木が、地図を睨んだ。
「エジプト、ペルー、中国、インド……どれも簡単には行けない場所だ」
「それに、あいつらが黙っていないでしょう」
俺は、神殿の方を見た。
「俺たちを追ってくる」
「ああ。だが、やるしかない」
黒木が、立ち上がった。
「まずは、日本を出よう。ここにいたら、すぐに捕まる」
脱出計画
翌朝、宮城の船が島に戻ってきた。
「おう、無事だったか」
「ああ。世話になった」
黒木が、現金を手渡した。
「礼だ」
「おう、ありがとよ」
船に乗り込む。
島が、遠ざかっていく。
「あの神殿、どうなるんですかね」
「おそらく、彼らが管理下に置くだろう」
黒木が、タバコに火をつけた。
「だが、もう遅い。お前が石と同調した。つまり、石の力は既にお前の中にある」
「でも、それって……」
俺は、自分の手を見た。
「俺、人間じゃなくなったってことですか」
「いや、お前は人間だ」
黒木が、俺の肩を叩いた。
「ただ、選ばれただけだ。人類を救うために」
その言葉が、重く胸にのしかかった。
石垣島に戻ると、黒木は素早く動いた。
「今から、香港に飛ぶ」
「香港?」
「そこから、エジプトに向かう。まずは、最も重要な石を起動させる」
「最も重要な?」
「ああ。ギザの大ピラミッドの下にある石だ」
黒木が、資料を見せた。
「そこが、ネットワークの中心だ。あれを起動させれば、他の石も連動して起動しやすくなる」
「分かりました」
空港に向かう途中、俺のスマホが鳴った。
知らない番号だった。
「もしもし」
『ケンジ……』
その声に、俺は凍りついた。
高橋さんだ。
「先輩! 無事だったんですか!」
『ああ、何とか。でも、もう長くない』
声が、弱々しい。
「どこにいるんですか。助けに――」
『いい。俺はもう終わりだ』
『でも、お前は違う。頼む、石を起動させてくれ』
「先輩……」
『人類を、救ってくれ。それが、俺たちの使命だ』
電話が、切れた。
「高橋さん!」
叫んだが、繋がらなかった。
「篠原君……」
黒木が、静かに言った。
「彼の想いを、無駄にするな」
俺は、拳を握りしめた。
「はい。絶対に、やり遂げます」
飛行機に乗り込む。
窓から、日本の島々が見えた。
「さよなら」
小さく呟いた。
次に日本に戻る時、世界は変わっているだろう。
良い方向に変わることを、祈るしかない。
俺の、世界を巡る旅が始まった。
時間は、刻一刻と過ぎていく。
二ヶ月後の春分の日まで、残された時間は少ない。
でも、俺は諦めない。
高橋さんの想い。古代文明の願い。全てを背負って、俺は戦い続ける。
人類の未来のために。
飛行機が、雲の上を飛んでいく。
手のひらの紋様が、微かに光っていた。
まるで、道を示すかのように。
第九章:エメラルドの秘密
ギザの夜
カイロの夜は、騒がしかった。
クラクションの音、人々の喧騒、アザーンの響き。全てが混ざり合って、異国の空気を作り出している。
「ここが、本当の戦場だ」
黒木が、ホテルの窓から街を見下ろしていた。
「日本と違って、彼らの監視網は薄い。でも、油断はできない」
俺は、ベッドに座ってノートパソコンを開いていた。
香港経由でエジプトに着いてから、三日。黒木は現地の協力者と接触し、ピラミッド潜入のルートを確保していた。
「明日の夜、決行する」
黒木が振り返った。
「観光客を装って、昼間のうちにピラミッド内部に潜伏する。夜、警備が手薄になったところで、地下に潜る」
「地下……」
俺は、手のひらの紋様を見た。
あれから、何度か遠隔起動を試した。日本国内の石は、全て起動できた。
でも、遠くの石になるほど、意識の繋がりが弱くなる。
「篠原君、体調は大丈夫か」
「はい。でも、正直……」
俺は言葉を濁した。
石と同調してから、体に変化が起きていた。
睡眠時間が極端に短くても平気になった。食事も、あまり必要としなくなった。
そして、時々、自分が人間なのか分からなくなる。
「怖いんですか」
黒木が、静かに聞いた。
「ええ。俺、本当に人間なんですかね」
「お前は人間だ」
黒木が、タバコに火をつけた。
「確かに、体は変わった。でも、心はどうだ」
「心……」
「高橋さんを救いたいと思う。人類を守りたいと思う。それは、人間の心だろう」
黒木が、俺を見た。
「力を持つことは、呪いかもしれない。でも、それをどう使うかは、お前次第だ」
その言葉に、少し救われた気がした。
ピラミッドの内部
翌日の昼、俺たちは観光客に紛れてギザのピラミッドに入った。
「すごい人ですね」
「ああ。だが、それが好都合だ」
大ピラミッドの内部は、狭く暗かった。
観光客たちが、ガイドの説明を聞きながら、ゆっくりと進んでいく。
俺たちは、その列の最後尾についた。
「あそこだ」
黒木が、小さく顎で示した。
壁の一部に、他と違う石が嵌め込まれている。
「あれが、隠し扉か」
「ああ。閉館時刻まで、どこかに隠れるぞ」
俺たちは、観光客の列から離れて、脇の小部屋に入った。
そこで、じっと時間が過ぎるのを待った。
三時間後、ピラミッドの照明が消えた。
閉館だ。
「行くぞ」
黒木が、懐中電灯を取り出した。
俺たちは、さっきの隠し扉に向かった。
黒木が、特殊な工具で石をこじ開ける。
ギギギ……
重い音を立てて、扉が開いた。
「やっぱり、あったか」
中は、狭い通路になっていた。
下へ、下へと続いている。
「ここを通れば、地下の遺跡に辿り着く」
「地下の遺跡?」
「ああ。ピラミッドの下には、さらに古い遺跡が眠っている。公式には、存在しないことになっているがな」
俺たちは、通路を降りていった。
十分ほど歩くと、開けた空間に出た。
「これは……」
目の前に広がっていたのは、巨大な地下神殿だった。
柱が何本も立ち並び、壁には象形文字とは違う紋様が刻まれている。
あの石と、同じ紋様だ。
「ここが、本当のギザの秘密か」
黒木が、呟いた。
神殿の中央に、祭壇があった。
そして、そこに。
「あった……」
巨大な翡翠色の石が、鎮座していた。
沖縄の島で見たものよりも、さらに大きい。直径五メートルはある。
「これが、ネットワークの中心……」
俺は、石に近づいた。
手を伸ばそうとした時、背後で声がした。
「そこまでだ」
敵のリーダー
振り返ると、あの男が立っていた。
沖縄の島で会った、組織のリーダーだ。
「よくここまで来られたな」
男が、ゆっくりと近づいてくる。
後ろには、黒服の部下が十人ほど。
「待っていたのか」
黒木が、銃を構えた。
「当然だ。君たちの行動は、全て読んでいる」
男が、余裕の笑みを浮かべた。
「篠原ケンジ君。君は優秀だ。石と同調し、ここまで辿り着いた」
「あなたたちは、何が目的なんだ」
俺は、叫んだ。
「なぜ、人類を救う手段を隠蔽する」
「救う?」
男が、嘲笑した。
「全員を救うことなど、不可能だ」
「だからって――」
「現実を見ろ」
男が、一歩踏み出した。
「二ヶ月後、磁場の反転が起きる。それによって、世界中で大災害が発生する」
「知っているなら、なぜ――」
「だからこそだ」
男が、石を見上げた。
「我々の組織は、五十年前からこの日に備えてきた。シェルター、食料、技術。全てを準備した」
「選ばれた人間だけを、救うために……」
「その通りだ」
男が、俺を見た。
「君も、その一人になれる。石と同調した君の力は、貴重だ」
「断る」
俺は、即答した。
「俺は、全員を救いたい」
「綺麗事だな」
男が、溜息をついた。
「では、力づくで来てもらおう」
男が手を挙げた。
部下たちが、一斉に銃を構える。
「篠原君、石に触れろ!」
黒木が叫んだ。
「今しかない!」
俺は、振り返って石に手を伸ばした。
銃声が響いた。
でも、弾は俺に届かなかった。
石が光り、バリアのようなものが俺を包んだ。
「何だと!」
男が、驚愕の声を上げた。
俺の手が、石に触れた。
真実の啓示
瞬間、世界が光に包まれた。
意識が、石の中に引き込まれる。
そこで、俺は全てを見た。
五万年前、古代文明が滅びた日。
地球全体を襲った、未曾有の大災害。
津波、地震、火山噴火。文明は、一夜にして消滅した。
『繰り返してはならない』
古代人たちの声が、響いた。
『我々の過ちを』
過ち?
『我々は、災害を予測していた。だが、一部の者だけを救おうとした』
場面が変わる。
豪華なシェルターに逃げ込む、選ばれた人々。
外では、助けを求める無数の人々。
『結果、文明は分断された。そして、完全に滅びた』
『シェルターに逃げた者たちも、結局は生き残れなかった』
『なぜなら、文明とは全体で成り立つものだからだ』
古代人の姿が、俺の前に現れた。
『我々の教訓を、伝える』
『災害は避けられない。だが、全員で立ち向かえば、乗り越えられる』
『石のネットワークは、そのためにある』
『全ての石を起動させれば、災害の正確なパターンが分かる』
『そして、全人類が協力して、備えることができる』
「でも、時間が……」
『ある』
古代人が、微笑んだ。
『お前は、石の守護者だ。お前の言葉は、世界に届く』
「俺の言葉が……?」
『そうだ。石を起動させろ。そして、真実を世界に伝えろ』
『それが、お前の使命だ』
起動
意識が、現実に戻った。
俺の手から、光が溢れ出していた。
石が、激しく輝き始めた。
ヴゥゥゥゥン――
重低音が、地下神殿全体に響く。
「何が起きている!」
男が、後退した。
石から、光の波が放射状に広がった。
それは、世界中の石に向けて。
視界が開ける。
世界中の石が、次々と光り始めた。
エジプト、ペルー、中国、インド、日本。
全ての石が、共鳴している。
「これが、ネットワーク……」
俺の脳裏に、膨大な情報が流れ込んできた。
災害のパターン。発生する場所。タイミング。被害の予測。
全てが、明確に分かった。
「見えた……全部、見えた!」
俺は叫んだ。
石の光が、さらに強くなる。
そして、その光は地上へと噴き出した。
ピラミッドの頂上から、翡翠色の光の柱が天に向かって伸びる。
「あれは……」
カイロ中の人々が、その光を見上げた。
いや、カイロだけじゃない。
世界中で、石が光の柱を放っていた。
それは、まるで地球全体を包む光のネットワークのようだった。
「篠原君!」
黒木の声で、我に返った。
「大丈夫か!」
「はい……成功しました」
俺は、膝をついた。
「全ての石を、起動できました」
男たちは、呆然とその光景を見ていた。
「まさか……本当に起動させるとは……」
男の声が、震えていた。
「これで、全世界に知られてしまう……」
「そうだ」
俺は、立ち上がった。
「もう、隠蔽はできない。真実は、世界中の人々に届いた」
実際、スマホのニュース速報が、次々と流れ始めていた。
『世界各地で謎の光の柱』
『古代遺跡から光が噴出』
『これは何を意味するのか』
「さあ、始まるぞ」
黒木が、俺の肩を叩いた。
「お前の戦いが」
俺は、頷いた。
石から得た情報を、世界に伝えなければならない。
災害の真実を。
そして、全人類が協力して立ち向かう方法を。
「行きましょう」
俺は、地上への階段を登り始めた。
背後で、男が呟いた。
「終わりだ……我々の計画は、全て水泡に帰した……」
でも、俺は振り返らなかった。
これは、終わりじゃない。
新しい始まりだ。
人類が、初めて一つになる時が来たんだ。
地上に出ると、ピラミッドの頂上から光が溢れていた。
集まった人々が、それを見上げている。
「さあ、世界よ」
俺は、空を見上げた。
「真実を、受け止めろ」
翡翠色の光が、夜空を照らしていた。
まるで、希望の灯台のように。
第十章:審判の光
世界の目覚め
ピラミッドの頂上から放たれた光は、一晩中消えなかった。
世界中のメディアが、この現象を報道した。
「謎の光の柱、世界十二カ所で同時発生」
「古代遺跡が放つ、翡翠色の光」
「これは自然現象か、それとも……」
カイロのホテルに戻ると、俺のスマホには無数の通知が来ていた。
SNSは、光の映像で溢れていた。
「見ろ、篠原君」
黒木が、ノートパソコンを俺に向けた。
画面には、世界地図が表示されている。十二カ所の光の柱の位置が、赤い点でマークされていた。
「気づいた人間がいる」
「何にですか」
「この配置だ」
黒木が、点と点を線で結んだ。
すると、完璧な幾何学パターンが浮かび上がった。
「正十二面体……」
「ああ。地球全体を、均等にカバーしている」
黒木が、別のウィンドウを開いた。
「既に、科学者たちが動き出している。この光が、何らかの警告である可能性を指摘し始めた」
「でも、まだ誰も真実を知らない」
「ああ。だから、お前が話す必要がある」
黒木が、俺を見た。
「世界に向けて、真実を」
決断
「どうやって話すんですか」
俺は、窓の外を見た。
カイロの街は、いつもと変わらず騒がしい。
「記者会見だ」
黒木が、タバコに火をつけた。
「俺の知り合いに、国際ジャーナリストがいる。彼に手配させる」
「でも、信じてもらえるんですかね」
「信じない人間もいるだろう。でも、信じる人間もいる」
黒木が、俺の肩を叩いた。
「そして、お前には証拠がある」
「証拠?」
「その手だ」
黒木が、俺の手のひらを指差した。
紋様が、微かに光っている。
「石と同調した証拠。そして、お前が語る災害の詳細なデータ」
「でも……」
俺は、躊躇した。
「俺が前に出たら、家族が危険に――」
「既に危険だ」
黒木が、厳しい口調で言った。
「石が起動した今、彼らは本気で動く。お前の家族も、俺の関係者も、全員が標的だ」
「だったら、なおさら――」
「だからこそだ」
黒木が、俺の目を見た。
「今、お前が前に出れば、世界中の目がお前に向く。そうなれば、彼らも簡単には手を出せない」
「本当に……」
「保証はできない。でも、黙っていても状況は変わらない」
黒木が、窓の外を見た。
「二ヶ月後、災害が来る。それまでに、世界を動かさなければならない」
俺は、自分の手を見た。
紋様が、脈打っている。
「分かりました」
俺は、決意した。
「やります。世界に、真実を伝えます」
記者会見
翌日、カイロの高級ホテルで記者会見が開かれた。
黒木の知人が手配した、国際的な会見だ。
会場には、世界中のメディアが集まっていた。
BBC、CNN、アルジャジーラ、NHK。
カメラのフラッシュが、俺を照らす。
「緊張するな」
黒木が、舞台袖で俺に囁いた。
「お前は、真実を話すだけでいい」
俺は、深呼吸をした。
そして、壇上に上がった。
無数のカメラが、俺を捉える。
「えー、初めまして。篠原ケンジと申します」
声が、少し震えた。
「昨夜、世界中で観測された光の柱について、説明させていただきます」
会場が、静まり返った。
「あれは、古代文明が残した警告システムです」
ざわめきが起きた。
「五万年前、この地球には高度な文明が存在しました。彼らは、地球の周期的な大災害を予測していました」
「そして、次の文明、つまり私たち人類に警告を残したのです」
俺は、手のひらを見せた。
紋様が、はっきりと光っている。
会場が、どよめいた。
「これが、その証拠です。私は、古代の石と同調しました」
「そして、見ました。二ヶ月後の春分の日、地球の磁場が反転します」
「それによって、世界中で大規模な地震、津波、火山噴火が発生します」
記者たちが、一斉にメモを取り始めた。
「これは、避けられません。自然の摂理です」
「しかし、備えることはできます」
俺は、用意した資料を掲げた。
「石のネットワークから得たデータです。災害が発生する場所、時刻、規模。全てが記されています」
「これを公開します。世界中の政府、科学者、全ての人々に」
会場が、騒然となった。
記者たちが、一斉に手を挙げた。
「質問です! あなたは、どうやってその情報を得たのですか!」
「石と同調しました。詳しいメカニズムは、まだ解明されていませんが、事実です」
「その情報は、科学的に検証されているのですか!」
「これから、検証してください。データは全て公開します」
「あなたは、何か利益を得るために、この会見を開いているのではないですか!」
「いいえ。私の目的は、人類を救うことだけです」
質問が、次々と飛んでくる。
俺は、一つ一つ答えた。
一時間後、会見は終わった。
舞台を降りると、黒木が待っていた。
「よくやった」
「でも、信じてくれたかどうか……」
「それは、これから分かる」
黒木が、スマホを見せた。
既に、会見の映像が世界中に拡散されていた。
ハッシュタグ『#古代の警告』がトレンド入りしている。
「始まったな」
世界の反応
会見から三日後。
世界の反応は、真っ二つに分かれた。
「信じる」派と「信じない」派。
「信じる」派は、主に科学者と一般市民だった。
「データを検証すべきだ」
「古代文明の可能性は、否定できない」
「備えて損はない」
一方、「信じない」派は、政府と既存の権力機構だった。
「根拠のないデマだ」
「大衆をパニックに陥れる行為だ」
「篠原ケンジは、詐欺師だ」
特に、あの組織が激しく動いた。
「篠原ケンジは、テロリストだ」
「彼の目的は、世界秩序の破壊だ」
「直ちに、拘束すべきだ」
各国政府に、圧力をかけている。
「まずいな」
黒木が、ニュースを見ながら呟いた。
「彼らは、本気でお前を潰しにかかっている」
「でも、もう引き返せません」
俺は、パソコンに向かっていた。
石から得たデータを、全て公開している。
災害の詳細な予測。避難すべき地域。準備すべき物資。
全てを、オープンソースとして世界に提供した。
「科学者たちが、検証を始めている」
黒木が、別のニュースを見せた。
「地震学者、火山学者、天文学者。彼らが、お前のデータを分析している」
「結果は?」
「まだ分からない。でも、少なくとも『完全なデタラメではない』という評価だ」
それだけでも、進歩だった。
リズとの出会い
その夜、ホテルのロビーで、一人の女性が俺に声をかけてきた。
「篠原さん、ですよね」
振り返ると、二十代前半くらいの、明るい雰囲気の女性が立っていた。
「はい。どちら様ですか」
「リズ・アインスワースです。ジャーナリストをしています」
リズと名乗った女性が、名刺を差し出した。
「お話、聞かせてもらえませんか。オフレコで」
「オフレコ?」
「はい。私、あなたのこと信じてます」
リズが、真剣な目で俺を見た。
「でも、世界を説得するには、もっと情報が必要です」
俺は、少し考えた。
「黒木さんに、確認してきます」
「もちろん。待ってます」
黒木に相談すると、意外にも賛成だった。
「彼女は信用できる。以前、一緒に仕事をしたことがある」
「そうなんですか」
「ああ。味方は、多い方がいい」
俺は、リズとホテルのカフェで話をすることにした。
「篠原さん、正直に聞きます」
リズが、コーヒーを飲みながら言った。
「あなた、怖くないんですか」
「怖いですよ。めちゃくちゃ」
俺は、苦笑した。
「でも、やるしかないんです」
「なぜ、そこまでするんですか」
「先輩が、命を懸けて託してくれたからです」
俺は、高橋さんのことを話した。
リズは、黙って聞いていた。
「そうですか……」
リズが、俯いた。
「実は、私も失った人がいるんです。家族を」
「え?」
「十年前の大地震で。東日本大震災です」
リズが、顔を上げた。その目に、涙が浮かんでいた。
「あの時、もっと早く避難していれば、家族は助かったかもしれない」
「リズさん……」
「だから、私、あなたを応援します」
リズが、俺の手を握った。
「今度こそ、みんなを救いたいんです」
その真剣な眼差しに、俺は頷いた。
「一緒に、やりましょう」
新しい仲間が、加わった。
カウントダウン
それから、世界は急速に動き始めた。
科学者たちの検証結果が、次々と発表された。
「データの整合性は高い」
「地磁気の異常が、実際に観測されている」
「春分の日に、天体配置が特殊な状態になることは事実」
徐々に、「信じる」派が増えていった。
特に、一般市民の間で。
SNSでは、『#備えよう』というハッシュタグが広がった。
人々が、自主的に避難計画を立て始めた。
でも、政府の動きは鈍かった。
「公式には、まだ認めない」
「パニックを避けるため」
表向きはそう言いながら、裏では着々と準備を進めている。
あの組織の影響力は、まだ強かった。
「時間がない」
俺は、カレンダーを見た。
春分の日まで、残り三週間。
「もっと、世界を動かさないと……」
その時、黒木が部屋に飛び込んできた。
「篠原君、大変だ」
「どうしたんですか」
「高橋さんが、見つかった」
「え!」
「日本で。意識不明の重体だ」
俺の心臓が、止まりかけた。
「先輩……」
「すぐに日本に戻ろう。彼に、会うべきだ」
俺は、頷いた。
荷物をまとめて、空港に向かった。
カイロの夜景が、窓から流れていく。
「待っててください、先輩」
心の中で、呟いた。
「俺、ちゃんとやってます。あなたの想い、無駄にしてません」
飛行機が、夜空へと飛び立った。
残された時間は、わずかだ。
でも、まだ諦めない。
最後まで、戦い続ける。
全人類の未来のために。
翡翠色の光が、世界を照らし続けていた。
審判の日は、刻一刻と近づいている。
第十一章:語り継がれる者たち
帰郷
成田空港に降り立った時、日本は既に変わっていた。
街中に、避難誘導の看板が立っている。
「三週間後の災害に備えましょう」
「高台への避難ルートを確認してください」
政府は、まだ公式には認めていない。でも、地方自治体が独自に動き始めていた。
「民意が、政府を動かし始めたな」
黒木が、タクシーの窓から街を見ていた。
「ああ。でも、まだ十分じゃない」
俺は、スマホのニュースを見た。
海外では、既に大規模な避難が始まっている国もある。
でも、日本は動きが遅い。
「官僚主義の弊害だ」
黒木が、舌打ちした。
「責任を取りたくないから、誰も決断しない」
「でも、市民は動いてる」
リズが、俺たちと一緒に日本に来ていた。
「SNSを見てください。みんな、自主的に備えてます」
確かに、Twitterでは『#備えよう』のハッシュタグで、避難計画や物資の共有が行われていた。
「これが、希望か……」
俺は、呟いた。
再会
高橋さんが入院している病院は、都内の大学病院だった。
「面会は、十分だけです」
看護師に案内されて、ICUに入った。
そこに、高橋さんがいた。
ベッドに横たわり、無数の管に繋がれている。
「先輩……」
俺は、ベッドに近づいた。
高橋さんの顔は、やつれていた。でも、まだ生きている。
「ケンジ……」
か細い声が、聞こえた。
「先輩! 聞こえるんですか!」
「ああ……何とか、な」
高橋さんが、薄く目を開けた。
「お前、やったんだな……石を、起動させた」
「はい。先輩のおかげです」
「いや……お前の、力だ」
高橋さんが、小さく笑った。
「俺は、何もできなかった。ただ、データを渡しただけだ」
「そんなことありません。先輩がいなければ、俺は何もできませんでした」
「ケンジ……」
高橋さんが、俺の手を握った。
その手は、驚くほど冷たかった。
「頼む……最後まで、やり遂げてくれ」
「最後って、何を言ってるんですか。先輩はまだ――」
「俺は、もう長くない」
高橋さんが、静かに言った。
「彼らに、拷問を受けた。体が、もう限界だ」
「そんな……」
「いいんだ。俺は、お前に託せた。それで十分だ」
高橋さんの目が、優しく俺を見た。
「ケンジ、お前は強い。きっと、人類を救える」
「先輩……」
「約束してくれ。諦めないと」
「約束します」
俺は、涙をこらえながら答えた。
「絶対に、やり遂げます」
「ありがとう……」
高橋さんが、目を閉じた。
心電図の波形が、ゆっくりと弱くなっていく。
「先輩!」
俺は、叫んだ。
でも、高橋さんは答えなかった。
ピーーーーー
心電図が、フラットになった。
「先輩! 嘘だろ、先輩!」
医師と看護師が、飛び込んできた。
蘇生措置が始まる。
でも、高橋さんは戻ってこなかった。
「ご臨終です。午後三時二十七分」
医師の声が、遠くに聞こえた。
俺は、その場に崩れ落ちた。
悲しみと決意
病院を出ると、リズが待っていた。
「篠原さん……」
リズが、俺を抱きしめた。
「泣いていいんですよ」
その言葉で、堰が切れた。
俺は、初めて声を上げて泣いた。
高橋さんは、もういない。
俺に全てを託して、逝ってしまった。
「畜生……畜生……」
拳で地面を叩いた。
「なんで、こんなことに……」
黒木が、静かに俺の肩に手を置いた。
「彼は、最後まで考古学者だった」
「え?」
「真実を追い求め、それを次の世代に託す。それが、彼の生き方だった」
黒木が、空を見上げた。
「お前は、その想いを受け継いだ。なら、やるべきことは一つだ」
「やり遂げる……ですか」
「ああ。それが、彼への最大の供養だ」
俺は、涙を拭った。
「そうですね。泣いてる場合じゃない」
立ち上がって、空を見上げた。
「先輩、見ててください。俺、絶対にやり遂げます」
最後の戦い
それから、俺たちは休む間もなく動いた。
日本政府に、直接働きかける。
国会議員、官僚、科学者。あらゆる人間と会った。
「データは、本物です」
「災害は、必ず来ます」
「今、動かなければ、何百万人もの命が失われます」
でも、反応は鈍かった。
「検討します」
「慎重に判断します」
そんな言葉ばかりだった。
「くそ、時間がないのに……」
俺は、苛立ちを隠せなかった。
その時、リズが提案した。
「国民に、直接訴えましょう」
「直接?」
「生放送です。全国ネットで」
リズが、スマホを見せた。
「私の知り合いに、テレビ局のプロデューサーがいます。特別番組を組んでくれるって」
「でも、政府が許可するかな」
「許可なんて、いりません」
リズが、にっこり笑った。
「私たち、もう犯罪者扱いされてるんです。今さら、ルールなんて気にしません」
その言葉に、俺は笑った。
「そうですね。やりましょう」
全国放送
三日後、俺たちは東京のテレビ局にいた。
深夜の特別番組。『古代の警告は真実か』
スタジオには、俺とリズ、そして何人かの科学者が呼ばれていた。
「では、始めます」
ディレクターの声で、放送が始まった。
「皆さん、こんばんは」
リズが、カメラに向かって話し始めた。
「今夜は、重大な情報をお伝えします」
「二週間後に迫った、地球規模の大災害について」
画面に、俺の姿が映る。
「篠原ケンジさんです。彼が発見した古代の石について、お話を伺います」
俺は、深呼吸をした。
そして、全てを話した。
石の発見。高橋さんとの出会い。組織の妨害。世界を巡る旅。
そして、石から得た災害の予測データ。
「これが、全てです」
俺は、データを画面に映した。
「この地域で、地震が発生します。この地域で、津波が来ます。この火山が、噴火します」
「全て、二週間後の春分の日に」
スタジオが、静まり返った。
「信じてください。これは、デマでも陰謀論でもありません」
俺は、手のひらを見せた。
紋様が、はっきりと光っている。
「これが、証拠です。俺は、石と同調しました」
「そして、見たんです。古代文明の記憶を。彼らの警告を」
カメラが、俺の手をクローズアップする。
「お願いします。備えてください」
「高台に避難してください。非常食を用意してください。家族で、避難計画を立ててください」
「まだ、間に合います」
科学者たちも、データの信憑性について語った。
「地磁気の異常は、実際に観測されています」
「天体配置も、篠原さんの言う通りです」
「可能性として、無視できません」
番組は、三時間続いた。
最後に、リズが言った。
「政府は、まだ公式な見解を出していません」
「でも、私たち市民は、自分で判断できます」
「信じるか、信じないか。それは、あなた次第です」
「でも、備えて損はありません」
「どうか、ご家族と話し合ってください」
放送が終わった。
スタジオを出ると、黒木が待っていた。
「よくやった」
「でも、これで十分でしょうか」
「分からない。でも、お前にできることは、やり尽くした」
黒木が、空を見上げた。
「あとは、人々が決めることだ」
カウントダウン
翌日から、日本中が動き始めた。
政府は、ついに公式見解を出した。
「災害の可能性を、完全には否定できない」
「国民の皆様には、自主的な避難を推奨します」
遅すぎる決断だった。でも、出ないよりはマシだった。
企業も動いた。
「春分の日は、全社員在宅勤務」
「臨時休業します」
学校も休校になった。
街中に、避難所の案内が貼られた。
「やっと、動き出した……」
俺は、街の様子を見ながら呟いた。
「でも、間に合うかな」
「間に合わせるんだ」
リズが、隣に立った。
「私たちが、ここまで頑張ったんです。無駄にはなりません」
「リズさん……」
「それに、見てください」
リズが、スマホを見せた。
SNSには、人々の投稿が溢れていた。
「家族で避難計画を立てました」
「非常食、準備完了」
「みんな、一緒に乗り越えよう」
『#みんなで生き延びよう』
そのハッシュタグが、トレンドの一位になっていた。
「これが、人類の力か……」
俺は、涙が出そうになった。
「高橋さん、見てますか」
空を見上げた。
「人々は、動き始めました。みんな、生き延びようとしています」
翡翠色の光が、今日も空を照らしていた。
まるで、希望の灯台のように。
春分の日まで、残り一週間。
最後の戦いが、始まろうとしていた。