青空短編小説

異世界トリップデュオ〜姫と執事に転生した宿敵の共同生活〜

登録日時:2025-11-21 08:48:06 更新日時:2025-11-21 08:50:26

第一章 次元の狭間で


「リーゼル! 最大出力の光魔法だ!」


俺――勇者カイルは、荒れ果てた戦場で叫んだ。目の前には、魔王ゼノスが不敵な笑みを浮かべている。


「フン、バルザック、貴様も全力を出せ。この勇者ごときを消し炭にしてやる」


ゼノスの低い声が、戦場に響き渡る。俺たちは、何度も何度も戦ってきた。光と闇。善と悪。この戦いが、最終決戦になるはずだった。


「行くぞ! 光よ、世界を照らせ!」


「闇よ、全てを飲み込め!」


リーゼルとバルザック、それぞれの陣営最強の魔法使いが、同時に魔法を放った。


光の奔流と闇の波動が、激突する。


その瞬間、世界が歪んだ。


「なっ、何だこれは!」


俺の目の前に、巨大な亀裂が開く。空間そのものが裂けているようだった。吸い込まれる感覚に、必死に抵抗しようとする。だが、その力はあまりにも強大で――。


「貴様ぁぁ! これは貴様の仕業か!」


ゼノスの怒号が聞こえる。いや、俺だって知らない。こんなこと、想定外だ。


視界が白く染まり、意識が遠のいていく。最後に聞こえたのは、リーゼルの悲鳴と、バルザックの呪詛の声だった。


第二章 目覚めた場所


ふわふわとした感触に、俺は目を開けた。


「……え?」


視界に飛び込んできたのは、豪華な天蓋付きのベッドだった。金色の刺繍が施された布地が、俺の上に優雅にかかっている。


「姫様! お目覚めですか!」


聞き慣れない声に、俺は跳ね起きた。


目の前には、メイド服を着た若い女性が立っている。彼女は、俺を見て安堵の表情を浮かべた。


「よかった、姫様。三日も眠り続けていらしたので、心配しておりました」


ひめ、さま?


俺は、自分の手を見た。


細くて、白い。俺の手じゃない。剣を握り続けてきた、ゴツゴツした手じゃない。


「鏡、鏡を持ってこい!」


「は、はい!」


メイドが慌てて手鏡を持ってくる。俺は、その鏡を覗き込んだ。


そこに映っていたのは、見知らぬ少女だった。


金色の髪、大きな青い瞳、華奢な体つき。どう見ても、可憐なお姫様だ。


「……嘘だろ」


俺は、自分の顔を触った。柔らかい頬、小さな鼻、薄い唇。全部、本物だ。


「姫様、お気分が悪いのでしょうか?」


メイドが心配そうに覗き込んでくる。


俺は、頭を抱えた。


これは、夢なのか? それとも、現実なのか?


勇者カイルが、お姫様になってしまった。


第三章 執事の朝


一方、その頃――。


「起きろ」


冷たい声に、俺は目を覚ました。


薄暗い部屋だった。シンプルで質素な内装。だが、どこか品がある。


「お前は、誰だ」


俺――魔王ゼノスは、目の前に立つ男を睨みつけた。


長身で、スラッとした体つき。黒い執事服を完璧に着こなしている。その男は、俺を無表情に見下ろしていた。


「私は、エドガー。お前の教育係だ」


教育係? 何を言っている?


俺は、自分の身体を確認した。


細い。筋肉が、ない。俺の身体じゃない。


「鏡を寄越せ」


「鏡など必要ない。お前は、王宮の新人執事見習いだ。さっさと着替えて、姫様の世話をする準備をしろ」


ひめさま?


俺は、混乱した。


だが、エドガーと名乗る男は、容赦なく俺を引きずり起こした。


「お前は、今日から姫様付きの執事だ。失態は許されない。分かったか」


「待て、俺は――」


「返事は『はい』だ」


エドガーの冷たい視線に、俺は思わず口を閉ざした。


これは、一体どういうことだ。


魔王ゼノスが、執事になってしまった。


第四章 初めての対面


「姫様、本日の予定をご説明いたします」


俺――姫の姿をしたカイルは、執事の説明を聞きながら、部屋の中を歩き回っていた。


三日経っても、この身体に慣れない。スカートが邪魔だし、髪が長すぎる。何より、力が全然出ない。


「姫様、お聞きでしょうか」


「あ、ああ、聞いてる」


俺は、慌てて返事をした。


この世界のことは、少しずつ理解してきた。ここは、元の世界とは全く違う場所だ。魔法も、魔物も、魔王も勇者もいない。


ただ、人間だけが暮らす世界。


そして、俺はこの国の第一王女、エリアナ姫として生きることになった。


「それでは、新しい執事をご紹介いたします」


執事長が、扉を開けた。


そこに立っていたのは、黒い執事服を着た青年だった。


俺は、その姿を見た瞬間、背筋が凍った。


この気配、この雰囲気。


まさか――。


「姫様、こちらが新人執事のアルフレッドでございます」


青年が、深々と頭を下げる。


俺は、その顔を見た。


見覚えがない。だが、この魂の奥底から湧き上がる感覚は、間違いない。


宿敵だ。


「……よろしく頼む」


俺は、震える声でそう言った。


青年――ゼノスは、顔を上げて、俺を見た。


その瞬間、俺たちの視線が交わる。


互いの目が、一瞬だけ見開かれた。


だが、すぐに青年は無表情に戻り、丁寧に頭を下げた。


「姫様にお仕えできること、光栄に存じます」


その声は、冷たく、そして完璧だった。


俺は、心臓が跳ね上がるのを感じた。


まさか、こんな形で再会するなんて。


第五章 互いの探り合い


それから数日間、俺とゼノスは、互いに探り合うような日々を送った。


「姫様、お茶をお持ちしました」


「ああ、ありがとう」


俺は、ゼノスが淹れた紅茶を受け取る。


一口飲んで、俺は驚いた。


「うまい」


「光栄です」


ゼノスは、相変わらず無表情だ。


だが、その目の奥に、何か企んでいるような光が見える。


俺は、紅茶を飲みながら、ゼノスを観察した。


執事としての動きは、完璧だ。まるで、生まれた時からこの仕事をしていたかのような滑らかさ。


だが、時々見せる鋭い視線や、冷たい言葉の端々に、前世の傲慢さが垣間見える。


「姫様、本日の予定ですが――」


「その前に、一つ聞いていいか」


俺は、ゼノスを見た。


「お前、魔族について詳しいか?」


その瞬間、ゼノスの動きが止まった。


「……なぜ、そのようなことを?」


「いや、ちょっと気になってな」


俺は、わざと軽い口調で言った。


ゼノスは、しばらく沈黙した後、静かに答えた。


「姫様、この世界に魔族は存在しません」


「そうか」


俺は、紅茶を飲み干した。


嘘をついている。絶対に、こいつは何か知っている。


第六章 正体の露見


ある夜、俺は城の図書館で、元の世界に戻る方法を探していた。


この世界には、魔法はない。だが、古い文献には、異世界転移に関する記述があるかもしれない。


「姫様、こんな夜更けに何をなさっているのですか」


背後から、声がした。


振り返ると、ゼノスが立っていた。


「お前こそ、なぜここに」


「姫様の護衛です」


ゼノスは、俺の隣に座った。


そして、俺が読んでいた本を見る。


「『異世界転移の記録』……姫様、まさか」


「まさか、何だ?」


俺は、ゼノスを睨んだ。


ゼノスは、しばらく黙っていたが、やがて深いため息をついた。


「……勇者カイル」


その瞬間、俺の心臓が止まった。


「貴様、やはり――」


「魔王ゼノス、か」


俺たちは、互いを睨み合った。


静寂が、図書館を支配する。


そして、同時に立ち上がった。


「貴様が、この転移を起こしたのか!」


「違う! 俺だって、訳が分からん!」


「嘘をつくな! 貴様の仕業に決まっている!」


「お前こそ、魔族の謀略だろう!」


俺たちは、互いに掴み合った。


だが、この身体では、力が出ない。


結局、俺たちは床に倒れ込み、息を切らした。


「……くそ、力が出ない」


「俺も、だ」


しばらく沈黙が続いた後、ゼノスが口を開いた。


「とりあえず、停戦しないか」


「……何?」


「この状況で争っても、意味がない。元の世界に戻る方法を探すのが先決だ」


俺は、ゼノスを見た。


その目は、真剣だった。


「……分かった。だが、信用はしないからな」


「俺も、だ」


俺たちは、立ち上がった。


宿敵同士が、協力する。


それは、奇妙で、滑稽で、そして少しだけ――心強かった。


終章 新しい日常の始まり


それから、俺たちは姫と執事という関係を装いながら、元の世界に戻る方法を探し始めた。


「姫様、今日の予定ですが――」


「分かってる。午前中は領民との謁見、午後は図書館での調査だ」


「その通りです」


ゼノスは、相変わらず完璧な執事を演じている。


だが、俺たちは互いの正体を知っている。


「なあ、ゼノス」


「何でしょうか、姫様」


「お前、執事の仕事、意外と向いてるな」


「……貴様も、姫としての振る舞いが板についてきた」


俺たちは、顔を見合わせて、小さく笑った。


元の世界では、殺し合っていた。


だが、この世界では、協力しなければ生きていけない。


「まあ、悪くない、か」


「ああ、悪くない」


俺たちは、城の廊下を歩いた。


姫と執事。


勇者と魔王。


この奇妙な共同生活は、まだ始まったばかりだ。


そして、この転移の謎も、まだ何も分かっていない。


だが、俺たちは前に進む。


元の世界に戻るために。


そして、もしかしたら――この世界で、新しい何かを見つけるために。


異世界トリップ・デュオの物語は、こうして始まった。

※この作品はAIで創作しています。