青空短編小説

エメラルドの秘密

登録日時:2025-11-01 03:08:12 更新日時:2025-11-01 03:09:24

第一章 光の誕生


俺の名前は篠原ケンジ。考古学者の卵だ。


「ケンジ! こっち、早く!」


先輩の高橋さんの声が、薄暗い発掘現場に響く。俺は急いでスコップを置いて、地下への階段を駆け下りた。


「どうしたんですか?」


「見てくれ、これを」


高橋さんが懐中電灯で照らした先に、それはあった。


俺は息を呑んだ。


人の背丈ほどもある、巨大な石。いや、石というには、あまりにも美しすぎる。表面は鏡のように滑らかで、内部は半透明の翡翠色に輝いている。まるで、夜空の星々を閉じ込めたみたいに、繊細な光が石の中で瞬いていた。


「すげえ……」


思わず呟いた言葉が、地下室に小さく反響する。


こんなもの、見たことがない。いや、教科書にだって載ってない。この山奥の遺跡から、まさかこんな発見があるなんて。


「これ、本物ですよね?」


「間違いない。この加工技術、古代のものとは思えないほど精巧だ」


高橋さんの声が震えている。俺と同じくらい興奮しているのが伝わってくる。


俺たちは三年もの間、この遺跡の調査を続けてきた。周囲からは「何も出ないだろう」と笑われ、予算も削られ続けた。それでも諦めずに掘り続けた結果が、これだ。


「ケンジ、これで俺たちも認められるぞ」


「ええ、これは歴史を塗り替える発見ですよ」


俺は石に手を伸ばした。冷たく、滑らかで、それでいて生命を宿しているような不思議な感触。内部で揺らめく光が、俺の手のひらに反射する。


美しい。


本当に、美しい。


「早速、大学に連絡を……」


高橋さんがそう言いかけた時だった。


地上から、車のエンジン音が聞こえてきた。


第二章 黒い来訪者


「なんだ? こんな山奥に車?」


高橋さんが怪訝な顔をする。この遺跡は人里から離れた場所にある。普通の車じゃ、ここまで来れない。


エンジン音は複数だ。しかも、どれも重厚な音を立てている。


俺は嫌な予感がした。


「上に行ってみます」


地上に出ると、目の前の光景に言葉を失った。


黒い高級車が、五台。


まるで映画のワンシーンみたいに、完璧に整列して停まっている。


車のドアが開き、黒いスーツを着た男たちが降りてくる。全員がサングラスをかけていて、表情が見えない。彼らは無言で、俺たちの発掘現場を取り囲んだ。


「あ、あの、ここは許可を得た発掘現場なんですが……」


高橋さんが声をかける。でも、男たちは反応しない。


やがて、一台の車から、リーダーらしき男が降りてきた。他の連中よりも頭一つ分高く、威圧感がある。


「君たちが、この遺跡の発掘チームか」


低く、感情のこもらない声だった。


「そうですが、あなた方は?」


「我々は、国家安全保障に関わる機関の者だ」


男はそう言って、胸元から何か証明書のようなものを見せた。でも、一瞬だけで、内容を確認する暇もない。


「この遺跡から発見された物体について、確認させてもらう」


「ちょ、ちょっと待ってください! 私たちは正式な許可を得て……」


「許可は無効だ」


男の言葉が、高橋さんの声を遮る。


「この遺跡は、機密事項に該当する。今後の調査は禁止する。そして、発見された物体は、我々が回収する」


「そんな! これは学術的に重要な発見なんです!」


高橋さんが食い下がる。でも、男は微動だにしない。


「君たちに拒否権はない。これは国家の判断だ」


その言葉には、有無を言わさぬ力があった。


俺は拳を握りしめた。くそ、何なんだよ、こいつら。三年もかけて、やっと見つけたのに。


黒スーツの男たちが、地下へと降りていく。そして数分後、あの美しい石を、機械を使って運び出してきた。


光が、遠ざかっていく。


俺たちの発見が、名も知らぬ連中に奪われていく。


「待ってください! せめて、どこに運ぶのか教えてください!」


俺は思わず叫んだ。


リーダーの男が、初めて俺の方を向いた。サングラスの奥から、鋭い視線を感じる。


「若いの、忠告しておく。この件に深入りするな。君の将来のために」


それだけ言うと、男は車に乗り込んだ。


黒い車の列が、石を載せて走り去っていく。


土煙だけが、静かに舞い上がった。


第三章 始まりの決意


その日の夜、俺は眠れなかった。


テントの中で、天井を見つめている。頭の中で、あの石の輝きが何度もフラッシュバックする。そして、黒スーツの男たちの冷たい眼差し。


「国家安全保障」だと?


何がどう安全保障に関わるんだよ。あれは古代の遺物だ。考古学的な価値はあっても、国家の秘密になるようなものじゃない。


それとも……。


あの石には、俺たちが知らない何かがあるのか?


「ケンジ、起きてるか?」


テントの外から、高橋さんの声がした。


「はい」


外に出ると、高橋さんが焚き火の前に座っていた。いつもの明るい表情はなく、深刻な顔をしている。


「座れ」


俺は高橋さんの隣に腰を下ろした。


「ケンジ、今回のことは忘れろ」


「え?」


「あの連中は、本物だ。逆らえば、俺たちの人生が終わる。大学にも口止めされた。この発掘は、なかったことになる」


高橋さんの声が震えている。怒りなのか、悔しさなのか、恐怖なのか。


「でも、先輩……」


「ケンジ、お前にはまだ未来がある。こんなことで潰されるな」


俺は唇を噛んだ。


高橋さんの言うことは正しい。普通なら、ここで引くべきだ。


でも。


「俺、調べます」


「ケンジ!」


「あの石が何なのか。どうして国が隠すのか。知りたいんです」


高橋さんは長い間、俺を見つめていた。そして、ため息をついた。


「お前、本当にバカだな」


「すみません」


「謝るな。……俺も、同じこと考えてた」


高橋さんが苦笑する。その顔に、いつもの先輩の表情が戻ってきた。


「じゃあ、一緒に……」


「いや、俺はここまでだ」


高橋さんは首を横に振った。


「俺には家族がいる。守るべきものがある。だから、お前一人で行け。でも、これだけは渡しておく」


高橋さんは、ポケットから小さなUSBメモリを取り出した。


「あの石の写真と、遺跡の詳細データだ。消される前にコピーしておいた」


「先輩……」


「持っていけ。そして、真実を見つけたら、俺にも教えてくれ」


俺はUSBメモリを受け取った。小さくて、軽い。でも、ずっしりと重い。


「ありがとうございます」


「気をつけろよ、ケンジ。お前が相手にするのは、この国の闇だ」


焚き火の炎が、ゆらゆらと揺れている。


俺の旅は、ここから始まる。


古代の叡智。隠された科学技術。そして、現代社会の裏で蠢く巨大な陰謀。


あの美しい石の秘密を、俺は必ず暴いてみせる。


たとえ、どんな危険が待っていても。


空を見上げると、満天の星が輝いていた。まるで、あの石の内部で瞬いていた光みたいに。


「待ってろよ」


俺は小さく呟いた。


これは、始まりに過ぎない。

※この作品はAIで創作しています。