ストーン・ウィスパー〜第三章 暴走する力と絆の試練〜
山岳地帯の脅威
一週間の旅を経て、三人は険しい山岳地帯に入っていた。アルカスの案内で、古の賢者が残したという「調和の神殿」を目指している。
「この先に神殿があるはずなんだが…」アルカスが地図を確認していると、突然地響きが起こった。
「何だ?地震?」エリンが不安そうに呟いた。
しかし、それは地震ではなかった。山の向こうから現れたのは、巨大な石の巨人だった。その体には無数のダークストーンが埋め込まれ、禍々しいオーラを放っている。
「ストーン・ゴーレム…まさか、シャドウがこんなものまで」アルカスの顔が青ざめた。
巨人の背中には、黒いローブを着た人影が立っている。フードを深く被っているため顔は見えないが、その存在感は他の戦闘員とは明らかに違っていた。
「調和の石の継承者よ」低く響く声が山々に木霊した。「私はシャドウの幹部、『ヴォイド』。その石を大人しく渡すなら、仲間の命は保障しよう」
「断る!」リュウは共鳴石を握りしめた。「この石は、世界を救うためにあるんだ!」
圧倒的な力の差
「愚かな」ヴォイドが手を振ると、ストーン・ゴーレムが三人に向かって突進してきた。
「散開!」アルカスの指示で、三人はそれぞれ違う方向に逃げた。
エリンがアイスストーンの力で氷の壁を作り、ゴーレムの動きを封じようとする。しかし、巨人の力は凄まじく、氷の壁は簡単に砕け散ってしまった。
「くっ、効かない!」
アルカスも額の石から虹色の光線を放つが、ゴーレムの装甲は分厚く、ダメージを与えることができない。
「リュウ、君の力を使うんだ!」
リュウは共鳴石に意識を集中した。すると、石は眩い光を放ち始める。しかし、その光は次第に制御を失い始めていた。
力の暴走
「うわあああ!」
リュウの叫び声と共に、共鳴石から巨大なエネルギーが放出された。その力は周囲の全てのストーンに影響を与え、エリンとアルカスの石も異常な反応を示し始める。
「リュウくん、やめて!」エリンのアイスストーンから制御不能の吹雪が巻き起こる。
アルカスの額の石も激しく明滅し、彼を苦しめていた。
「だめだ…制御できない!」
暴走したエネルギーは、ストーン・ゴーレムにも影響を与えた。巨人は身体中のダークストーンが過負荷を起こし、崩壊を始める。
「何だ、これは…」ヴォイドも困惑していた。「まさか、制御できていないだと?」
心の声
暴走する力の中で、リュウは祖母の声を聞いた。
『リュウ、力に頼ってはいけません。大切なのは、仲間との絆です』
「祖母…」
『エリンちゃんとアルカスくんの心の声を聞いてごらんなさい。彼らが本当に求めているものを』
リュウは必死に意識を集中した。すると、エリンとアルカスの心の声が聞こえてきた。
エリン:『リュウくん、一人で頑張らないで。私たちがついてる』
アルカス:『君は一人じゃない。みんなで力を合わせれば、きっと大丈夫だ』
「そうだ…僕は一人じゃない」
リュウは暴走する力を無理に抑えるのではなく、仲間たちと調和させることを選んだ。
真の調和
「エリン!アルカス!僕と心を合わせて!」
三人は手を取り合った。その瞬間、暴走していたエネルギーが美しい光に変わり、調和のとれた力となって周囲に広がっていく。
エリンのアイスストーンは穏やかな雪を降らせ、アルカスの石は温かな虹の光で辺りを包み込んだ。
「これが…真の調和の力」アルカスが感動で言葉を失った。
調和の力は、崩壊しかけていたストーン・ゴーレムも包み込んだ。すると、巨人の体に埋め込まれていたダークストーンから闇の力が抜けていき、美しい光のクリスタルに変わっていく。
「不可能だ…ダークストーンが浄化されるなんて」ヴォイドが驚愕した。
ゴーレムは闇の支配から解放され、今度は三人を守るかのように立ち上がった。
戦略的撤退
「今回は引かせてもらう」ヴォイドが言った。「だが、これで終わりではない。我々の目的は必ず達成される」
「待て!シャドウの真の目的は何だ?」リュウが叫んだ。
「知りたければ、『エクリプス・タワー』に来るがいい。そこで全ての真実を教えてやる」
ヴォイドは黒い霧と共に姿を消した。後には、浄化されたゴーレムと、疲れ果てた三人だけが残された。
新たな理解
「リュウ、素晴らしかったよ」アルカスが微笑んだ。「君はついに、真の調和の力を使えるようになった」
「でも、一人じゃできなかった」リュウがエリンとアルカスを見つめた。「みんながいてくれたから」
「それが調和の本当の意味なんですね」エリンが優しく言った。
浄化されたゴーレムは、ゆっくりと膝をついて三人にお辞儀をした。その瞳には、もう敵意はなく、感謝の光が宿っていた。
「君も仲間だ」リュウがゴーレムの手に触れた。「一緒に来てくれる?」
ゴーレムは静かに頷いた。こうして、三人の旅に新たな仲間が加わった。
調和の神殿にて
その日の夕方、ようやく調和の神殿にたどり着いた一行。古い石造りの神殿は、穏やかな光に包まれていた。
神殿の奥にある祭壇で、リュウは共鳴石を使った瞑想を続けていた。アルカスの指導のもと、石との対話を深めている。
「感じる…世界中のストーンの声が」リュウが呟いた。「みんな苦しんでいる。力を奪われて、悲しんでいる」
「それが君の使命だ」アルカスが静かに言った。「全てのストーンを救い、世界に調和を取り戻すこと」
エリンは神殿の壁に刻まれた古代文字を読んでいた。今では、リュウの力の影響で彼女にも文字が読めるようになっていた。
「ここに書いてあります。『真の調和者は、全ての石と心を通わせ、世界の均衡を保つ者なり』って」
「僕に、そんなことができるのかな」リュウが不安そうに言った。
「大丈夫」エリンが手を握った。「私たちがついてる」
「そうだ、一人じゃない」アルカスも頷いた。
ゴーレムも、大きな手でリュウの肩を優しく叩いた。
エクリプス・タワーへ
翌朝、四人と一体は神殿を後にした。目指すは、ヴォイドが言っていた「エクリプス・タワー」。シャドウの本拠地とされる謎の塔だ。
「きっと罠だろうね」アルカスが言った。「でも、行かないわけにはいかない」
「シャドウの目的が分からない限り、この異変は止められない」リュウが決意を込めて言った。
「どんな危険が待っていても」エリンが前を見つめた。「みんなで乗り越えましょう」
ゴーレムは無言だが、その足取りには強い意志が感じられた。
四人と一体は、大陸の中央部にそびえ立つという黒い塔を目指して歩き続けた。そこで待っているのは、世界の運命を決める最後の戦いかもしれない。
リュウは共鳴石を握りしめた。石は温かく、まるで祖母が見守ってくれているかのようだった。
「祖母、僕たちを見守っていてください。きっと、世界を救ってみせますから」
夕日が一行を照らし、長い影を地面に落としていた。最終決戦の地への道のりは、まだ続いている。